秋のザクカイ♀

秋にしては珍しく暖かかったから忘れていた。
そも、この島に季節感というのがないから、忘れていて当然とも言えるのだけれど。
「忍霧!良いとこに!」
ぱあ、と明らかに顔を輝かせる彼女に嫌な予感しかしなかった。
「頼む、匿ってくんなぁ!」
手を握り、真剣に言うカイコクにその予感は的中したことを悟る。
「…一体貴様は何を…」
呆れながら聞こうとした、その時。
誰かが探している声が聴こえる。
あれは。
「…入出?」
小さく名を呟けばカイコクはびくりと躰を強張らせた。
仕方ない、と近くの部屋に引っ張り込む。
「…暫くは大丈夫だろう」
「…助かった」
「…で?何があった」
へにゃりと笑う彼女に、ザクロは問いかけた。
忘れたのかい?と不思議そうなカイコクが、着ていた【制服のスカート】をつまみあげる。
「今日は、ハロウィン、だぜ。忍霧」
笑う彼女に暫く考え、ようやっと、ああ、と思った。
ハロウィン。
仮装をして街を練り歩き、お菓子を貰う日。
元々はヨーロッパの収穫祭を元にした行事だとか…そんな事はどうでも良くて。
妹であるサクラも好きだったな、とか思いながらカイコクを見た。
「ハロウィンと、貴様が逃げているのに何か関係があるのか?」
「着せ替え人形にされてる」
ブスッとした顔で答えた彼女によれば、ハロウィンなのに菓子を持っておらず、ならばとイタズラと称して色んな衣装を着せられているらしい。
ようやっと、なるほど、と思った。
随分珍しい格好をしていると思ったら。
眼鏡なんかかけているから最初は誰か分からなかったくらいだ。
「…なあ」
「?なんでェ」
きょとんとするカイコクに、それは本来着ていたものかと問う。
「…ああ。何故かタンスに仕舞いこまれてたんでな」
首を傾げながら、膝まであるスカートを摘み。
「…似合うかい?」
どこか自嘲するように笑う。
カイコクはあまりこういった、女性らしい格好は嫌っているように思えた。
ザクロとしては似合っているのだから嫌わなくても良いのに、と思うのだが。
何を着ていたってカイコクはカイコクだ。
…まあ、あまり露出が多いとこちらが困るのだが…それは置いておいて。
膝丈のプリーツスカートに、紺のベスト。
薄ピンクのYシャツに臙脂のリボンネクタイ、それにメガネ…どれも彼女によく似合っていると思った。
だから。
「似合うに決まっているだろう。本来貴様が着ていたものなのだから」
きっぱり言えばカイコクは目を見開く。
「…!」
「…俺は、普段の鬼ヶ崎も、良いと…思うが、こちらも良いと思う」
「…そうかい」
ザクロのそれに、ふやぁ、と柔らかい表情で彼女は微笑んだ。
「…と、いうかそれは仮装なのか?」
「さあ?…まあ、地味ハロウィンってぇのもあるくらいだしなぁ」
二人で首を傾げ、ぷっと吹き出す。
「これで仮装なら俺ぁ毎日仮装して行ってた事になるな?」
「現役との差じゃないのか、それは」
ふわふわと楽しそうなカイコクにザクロはいってやった。
それにしても、と彼女の眼鏡を外す。
やはりカイコクはこの方が良いな、と思った。
ただでさえ…普段と違うからドキドキするというのに。
「…制服プレイかい?お前さんもマニアックだねぇ」
「五月蝿い。普段見られないのだから、仕方が無いだろう?」
軽く笑う彼女にぶすくれながらも、トッと肩を押した。
マスクを外し、距離を近づける。
「なあ、鬼ヶ崎。…トリック・オア・トリート?」
「…俺が、甘いもの嫌いって知ってるくせに」
くすくす笑い、お互いにキスをした。



今日はハロウィン。
仮装と嘯くカイコクに、いたずらと言う名の菓子をねだる、日。




「忍霧、忍霧ぃ!せ、いふく…汚れ…!」
「…はっ、煽っておいて何を…!」
「…煽って、ねぇ…んぁあ!!」


(彼のトリックによって彼女の声が甘く甘く響くのもハロウィンの夜ならではなのです)

name
email
url
comment