優しい君に蜂蜜色のミルククラウンを(ケンシン/ケンヤバースデー)

突然だが、駆堂ケンヤは睡眠障害である。
だからと言って夜が嫌いなわけではない。
寧ろ夜は好きな方だった。
確かに眠れない夜は苦痛だった時もあるが、そういうものか、と割り切ってしまえば特に問題もなく。
今もぼんやりと閉め切った窓から夜空を眺めながら飲み物を口に運んでいた。
「…ケン兄?」
ふわり、とした声に振り向く。
そこには目をこすりながらこちらを見る弟、シンヤの姿があった。
「シンヤ。…どした?」
一瞬、彼が自分と同じ病気ではないかとどきりとしたが、シンヤはふるふると首を振る。
「…物音がしたから…起きた。…何飲んでるの?」
「これか?…んー、これはな、酒…」
「…」
「…ジョーダンだよ」
真面目な弟がじとりと睨むからケンヤは苦笑いを浮かべつつ呼び寄せた。
「ほれ」
「…。いいの?」
「良くなきゃ渡さないって」
見上げるシンヤに笑いながらケンヤはマグカップを手渡す。
おずおずとそれを口に含んだ彼が少し目を見開いた。
「…甘い。あったかい」
「ホットミルク、蜂蜜入り。美味いだろ?」
「…うん」
柔らかく笑うシンヤの、髪を撫でる。
兄弟なのに、彼は自分と違ってさらさらしているな、と思った。
「…あの」
「お?」
小さく言葉を吐き出すシンヤに、ケンヤは首を傾げる。
シンヤはあまり自分の気持ちを出さない…その分一番下の弟が顕著だが…のでたまにこうやって二人きりになって聞き出そうとしているのだ。
「物音がした、の…嘘で」
「うん」
「アラーム、かけてたんだ。ケン兄が起きてると思って」
「…うん?」
予想外のそれに驚きながら頷く。
コトン、とマグカップを置いたシンヤは何かを取り出し。
「…お誕生日おめでとう、ケン兄」
ふわ、と笑い、そう言った。
「…あ、あー…!」
すっかり忘れていた自分の誕生日を、わざわざ眠い中起きてまで祝ってくれる弟に、愛おしくなる。
「ありがとな、シンヤ」
「…うん」
「…んで、これは…?」
頭を撫でて、受け取った紙切れを見た。
小さな紙には【夜中のラーメン、チャーシュートッピング無料!】とある。
「…最近この辺を周ってるチャルメラ…ケン兄、ラーメン好き…だよね?」
こてん、と首を傾げるシンヤ。
なるほど、これを渡す為だったかと笑みが零れた。
「おう!大好きだ!!…んで?デートには一緒に行ってくんねーの?」
「…。…ケン兄がいいなら、良いよ」
差し出す手にそっと乗せられるシンヤの手。
それをぐいと引っ張った。
テーブル上のマグカップが揺れ、ミルククラウンを作る。
柔らかく笑うシンヤに、ぴったりな色で。
嗚呼、なんて幸せな誕生日!!

「んじゃ、行こうぜ!真夜中のラーメンデート!!」
腕の中に収まったシンヤに笑いかける。
幸せだ、と思った。
(この幸せが長く続きますようにと、夜空にらしくもなく願ってみたりして)



「あぁああ!!!ケン兄がまたシン兄とないしょしてたぁああ!!!ずりぃいい!!!!」
「…うっせーなーもー……。つか、なんでバレたんだよ…」
「帰ってきたトコ見られたんだからバレるよ…。…今度はアンヤも一緒に行こ?」

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