君は白兎(情タバ)

バニーっていうか、あの死んじゃった白兎に似てるねって言う情タバの話。

「あれ?情報屋じゃないか」
ふわふわとした声が聞こえて僕は振り返る。
手を振り、笑顔を見せるのは…タバサ=マクニール、【享年】23歳。
ラッセルが殺したうちの1人だ。
個人的には一番理不尽な殺され方をした人だと思う。
彼が…優しいから。
その優しさがラッセルに向かなかったから。
みんなに優しいって罪だよね?タバサ。
「こんにちは、タバサ。良く僕だって分かったね?」
にこっと笑ってみせると、タバサはきょとんとした。
「いや、分かるだろ。ラッセルとは全然違うし」
「そう?よく他の人には間違えられるよ」
「あー…ガーデニアとかだろ?おっちょこちょいだもんなぁ、なんか」
少し遠い目をしてから小さく笑うタバサ。
その頭上でウサギの耳が揺れた。
「…。…ところでそれ、どうしたの?」
「ん?ああ、これか?赤の羅針盤使ったらさ、ガーデニアの裏の崖んとこにダンジョンが出来て。そん中でラッセルが拾ったんだよ。んで、俺にくれた」
指を差せば、頭に手をやってからへにゃりと笑って説明してくれる。
意外な言葉に思わず目を丸くしてしまった。
…だって。
「ラッセルが?タバサに?」
「そ。なんか、前にクルミをやったからだって。別に良いのになー?」
楽しそうに笑うタバサに、そう、と僕も笑ってみせる。
…クルミをやったから、ね。
「俺なんかよりさー、似合う奴いるだろうに」
「そう?タバサ、うさぎに似てるからね。違和感ないよ」
「…そうか?ミレイユとか、コーディとかじゃなくて?」
僕のそれにタバサは首を傾げた。
ウサギの耳がふわりと揺れる。
「二人は犬とか猫とか、そっちっぽい」
「あー…いや、犬はガーデニアとユーミだろ。コーディは猫って言われりゃそうかもだけど…ミレイユは…うーん…」
「そこ、そんなに悩む?」
考え込むタバサに僕は笑った。
こうやって隙を見せるからラッセルに殺られるんだよ?
「お前が、俺をうさぎだとか言うからだろー」
もー、と笑う、タバサ。
別にうさぎは、寂しがりやという訳じゃない。
うさぎは、可愛らしいだけじゃない。
それなりに狂暴だったりもするし、縄張りを大切にしたりもする。
…それに、そう。
「…僕は、タバサはうさぎに似てると思うよ」
にこ、と僕は笑った。
「だーからー…」
「タバサ、可愛いし」
「いや、23歳の男に可愛いはなくね??」
「そ?僕は可愛いと思うけどなぁ」
へらへらと僕は言う。
そうかぁ?なんて言うタバサは分かってないんだ。
タバサはうさぎに似てる。
…あの日、白い毛を赤く染めたウサギのように。
ラッセルが哀れみを覚えたあのウサギのように。
タバサも、地面を赤く染めただろ?
炎に焼かれたコーディとも、突き落とされたガーデニアやミレイユとも、パパの下で冷たくなっていたユーミとも違う。
丸まって、一瞬のうちに命を亡くしてしまった。
その違いは、うさぎは他の人の手によって、タバサはラッセル自身の手によって、ということくらい、かな。
「そう言えば、東の国にはもっとうさぎに近い見た目になるバニー服っていうのがあって…」
「…。…なに、してるの」
僕のそれを遮るのは、ラッセルだった。
無表情に、僅かな怒りが見える。
あはは、ラッセルってば本当に僕が嫌いなんだから!
「ラッセル!今情報屋がさ、俺をうさぎみたいって…ラッセル?」
「…行こう、タバサ」
ぐい、と手を引っ張られ、タバサはうさぎ耳を揺らしながらラッセルの方に行った。
「?おう。あ、またな、情報屋!」
ひらひらと手を振るタバサに僕も手を振る。
うさぎみたいなタバサ。
物語のうさぎは騙されやすくてか弱くて…それから。
「…タバサも、赤、似合うよね」
くす、と笑って僕は家に戻る。
可愛らしいうさぎがどうなるか、なんて…僕の知ったことではないからね!

(あの白が赤に染まることはあるんだろうか、とか、考えてみたりして)

(うさぎを、血に塗れたタバサを見たならこの世界を壊す罪悪値は上がったかい?…ラッセル)

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