はちみつプレイは存じなかったのです意図した訳ではありません(ザクカイ)

ふわり、と甘い匂いがする。
「…何をやっているんだ?」
「あら、忍霧さん」
香りに釣られ、声を掛ければカリンが上機嫌に振り返った。
「何って、見て分からないかい?ザッくん。実験だよ、実験。今日は蜂蜜の日だろう?」
ティースプーンを揺らして楽しそうに言うのはユズだ。
「…はあ…?」
「8月3日で蜂蜜の日、所謂語呂合わせなんですよ。さっき、キッチンで蜂蜜を見つけて」
「そ、それで、せっかくだから色んなものに入れてみようって事になったんです」
疑問符を浮かべるザクロにカリンと、それを補足するようにヒミコが言った。
なるほど、彼女らの前には複数の蜂蜜の瓶の他、珈琲やらアイスやらプリンやらが置かれている。
今は実験という名のティータイムなのだろう…ザクロにはよく分からないが。
「忍霧さんも、良ければどうぞ」
「…いや、俺は…」
にこ、と笑って小さな瓶を差し出してくるヒミコにやんわりとザクロは断ろうとした。
だが。
「それ、あんまり甘くないから珈琲にもよく合うと思いますよ。忍霧さんたちにも美味しくいただけるんじゃないかしら」
「よもや、ひーみんのプレゼントを断る気じゃないだろうね?ザッくん?」
悪気のないカリンのそれと、ユズの笑顔の圧力に、ザクロは負ける。
小さく溜息を吐き出し、差し出された瓶を受け取った。 
「…頂こう」
「はいっ」
ふわふわと笑うヒミコが、「珈琲なら、これくらいがベストです!」と、ティースプーン半分くらいを掬い、珈琲に落とす。
キラキラした蜂蜜が、黒い水面に揺れて消えた。
「分かった、覚えておく」
礼を言い、食堂を出る。
「そういえば、きゅうりに蜂蜜かけたら何かにならなかったっけ?」
「えー…そういう実験はユズ先輩一人でやってください?ねぇ、ヒミコちゃ…ヒミコちゃん?」
「…ダメです。そんなベイビーたちを侮辱するような真似はいくらお二人であっても許しません!!いいですか、何事も黄金比がありまして…!」
「ひーみん、ちょっと落ち着き給えよ!!いくらのボクでも確証のない実験はやらないから!!なぁ、カリリン!」
「なんで私に振るんです?!…」
わーわーとヒートアップする女子の声を聞きながら、ザクロはある人の部屋に向かった。

「…で?寄りによってなんでまた俺を誘いに?」 
「甘くないと言われたからな。貴様でも飲めるかと」
不思議そうに、かつ少しブスくれた表情でこちらを見るのはカイコクだ。
それに、そう簡潔に説明してやる。
普段はお茶ばかり飲んでいる彼の部屋に珈琲は無く、仕方がないので己の部屋に引っ張りこんだのだった。
無理やり連れてこられたことに怒っていたようだが、美味しいものを淹れてやるから!という言葉に折れたらしい。
何ともチョロいというかなんというか。
これで自分よりも年上なのだから心配もしてしまう。
「まあ、そりゃあ有難くはあるが…」
むう、と不機嫌そうにベッドに座った彼がこちらを見た。
ちなみにそれを気にしてやれないのは、絶賛瓶の蓋を開けている真っ最中だからである。
「…なあ、それ…」
「いいっ!貴様は気にするな!」
「いや、気にするなって…お前さんなぁ…」
おずおずと手を伸ばそうとするカイコクに、ザクロはきっぱりと言った。
流石に、恋人として頼るわけにはいかない。
力のある彼に任せても別に構わないと人は言うだろうが…何となくザクロのプライドが許さなかった。
「ほら、開い、た…うわっ」
「っ?!!」
かぽっ、という軽い音と共に、力を入れすぎたせいだろうか、蜂蜜が瓶から飛び出し、カイコクのちらりと見えた肌に勢い良くかかる。
「すっ、すまない、鬼ヶ崎!!」
「だから言ったろう…うわ、ベタベタしやがる…」
慌てて謝るも、呆れたようにこちらを見たカイコクが不快そうな表情で蜂蜜を掬い取り、舐めてみせた。
「んむ…やっぱ甘ぇな…忍霧?」
ちゅぷ、と指を咥え、首を傾げる彼を…押し倒す。
「は?え??何す…待て、忍霧!!」
「…貴様が悪い」
「はぁあ?!お前さんが蜂蜜ぶっかけるのが悪いんだろう!」
マスクを外しながら言うザクロの暴論にカイコクは素っ頓狂な声を上げた。
それに、そうだな、と返して着流しをはだけさせる。
瓶を傾け、タパタパと露出させた肌に落とした。
「ひっ、冷て…!何しやがんでぇ、忍霧!」
「知っているか?鬼ヶ崎。今日は蜂蜜の日なんだと」
声を荒らげる彼にそう言って塗りたくっては甘ったるいそれを舐める。
「そ、れがなんだって…!ひっ?!」
「折角蜂蜜があるんだ。使わない手はないだろう?」
可愛らしい悲鳴を上げるカイコクにザクロは首を傾げた。
「はっ、嘘だろ…ぅ?!ぁっ、やっ、ちょ、ま…ふぁ、あっ?!!」
目を見開くカイコクがベッドに沈みこむ。
マグカップに淹れたアイスコーヒーの氷が、カランと音を立てた。

苦い苦い、珈琲のような彼は…蜂蜜によって甘く甘く溶かされる。
(ちなみに蜂蜜はスタッフが最後まで美味しく戴きました!)

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