アンヤバースデー(アンカイ)

カイコクがそわそわしている。
そう思ったのは昼にゲームが終わった時だった。
随分早く終わったな、と思いながら、特に用事もないから部屋に戻ろうとしていたところである。
…カイコクがきょろきょろしながらこちらを伺っていたのは。
「…んだよ」
「…何でもねェ」
純粋たる疑問をぶつけたつもりだったのだが、彼はあっさりそういうと踵を返して行ってしまった。
なんなんだ、と思いながら部屋に戻る。
ベッドに体を沈みこませ、そういえば、と思いを巡らせた。
カイコクがこちらを伺っていたのはさっきが初めてではなかったのではないか。
今日は朝からよく目が合った気がした。
ゲーム中だけではない。
共同洗面所でも食堂でも。
彼の綺麗な目はこちらを向いていて、アンヤと目が合うとふいと逸らされたのだ。
気付いてしまえばそれは苛立ちとなる。
言いたいことがあるなら言えば良いのに。
「…ムカつく」
ブスくれ、起き上がると部屋を出る。
「…うわっ?!」
「…って、おい!テメー待ちやがれ!!」
と、扉の向こうにはカイコクが居て。
驚いた顔をしていた彼が逃げようとするから腕を引き、部屋に引きずり込んだ。
ガチャリと鍵をかけ、追い詰める。
「逃げてんじゃねぇよ。鬼ヤロー」
「…逃げてねェ」
「嘘つけ!オレと目が合った瞬間逃げたじゃねぇかよ!」
ジリジリと距離を詰め、ベッドに押し倒した。
「言いたいことあんだろ?さっさと吐けや」
「…」
「…おい」
じろりと睨めば、カイコクは何かを諦めたようにため息を吐き出した。
これ、と差し出されたのは…小さな紙袋。
「…あ?」
思わず受け取り、中身をひっくり返せばピン留めが落ちてくる。
「…何、これ」
「…駆堂、ゲームやってる時よく髪が鬱陶しいっつってたからなァ。丁度良いかと」
和風の小さな飾りがついたそれは、男である自分が着けてもおかしくはなさそうで、思わず素直に「…サンキューな」と言ってしまった。
「つか、それ渡すだけでこんな逃げてたのかよ?」
「…んな、わけ…」
珍しくしどろもどろになっていたカイコクが覚悟を決めたようにこちらを見る。
そして。
「…?!」
「…誕生日、おめでとさん。駆堂」
触れるだけの可愛いキスと、囁かれる言葉。
それにようやっと自分が今日誕生日を迎えたことを知った。 
「…オメー、意外と律儀だよな」
「…なんでェ、そりゃ」
少しブスくれる、可愛い年上の彼に「なんもねーよ」と返し、笑ってみせる。
「なあ、プレゼントそんだけしかねぇの?」
「…お前さんも存外強欲だよなァ」
アンヤのそれにカイコクが目を見開いてからくすくすと笑った。
それに、「当たり前だろ?」と返す。
きょとんとするカイコクに笑いかけた。

こんな時くらい、強欲でいたっていいじゃないか!
(珍しく、甘やかせてくれる…誕生日様なんだから!!)

name
email
url
comment