パンケーキ彰冬

いつからだろう。
「…ん、ふぁ、ぁ…あき、と…」
ぎゅ、と縋り付く冬弥を抱き締めて深いキスをするようになったのは。
ふは、と苦しそうに息を繰り返す冬弥からそっと離れる。
小さな唇と、灰鼠色の瞳が濡れていて、ライブ後の沸騰しきった頭では、良いな、という単純的な思考回路しか残されていなかった。
興奮冷めやらぬ若い体は、発散を求めて荒れ狂うが、それをする機会はついぞ無いままだ。
一般的な高校生は、どこでセックスをするのだろうと思うがすぐに考えるのをやめる。
どちらにしろ選択肢は碌でもないのだ。
ならば自分が我慢すれば、とは思う。
思うが彰人だって聖人君主ではなかった。
ごくごく普通の青少年なのだから、毎度キスだけでは性欲は溜まる一方で。
しかも相手はあの冬弥だ。
何も知らない、うさぎのような彼にキス以外何ができようか。
「…っ」
トイレに行くか、と思いながら背を向ける彰人の服を、何かがくん、と引っ張った。
「…あ?冬弥?」 
「…彰人。…あの」
振り返る彰人の服を掴んでいたのは冬弥で、思わず目を見開く。
困ったようなそれに、なんだよ、と荒っぽく尋ねた。
「…パンケーキ、食べに行かないか」
熱っぽい目でそう言う冬弥に、思わずきょとんとする。
確かにパンケーキは彰人の好物ではあるが…何故今。
それに、冬弥は美味しいパンケーキの店を教えてくれはしても一緒に行こうと言い出したことはなかったのに。
「…今、か?」
「…。…ああ」
こくんと頷いた冬弥が何かを差し出してくる。
「…!…お前、これどこで!」
くしゃくしゃになったそれは、ラブホテルのデザートチケットだった。
真面目なはずの彼が何処でコレを、と思ったが、冬弥は「貰ったファンレターに入っていて」と小さく告げる。 
「…真面目なお前はどこ行ったんだよ」
「…。…彰人が、そうした癖に」
呆れながら言えば、そうブスくれたように返す冬弥。
煽られてる、と思いながらチケットを見た。
セクハラも良いところだし、なんなら高校生相手に送っている分、何かの犯罪になりそうなものだが…あるものは使わせてもらおうと嗤った。
こっそり仕込まれているチケットなのだから恐らく警備は緩いのだろう。
未成年が二人入った所でリスクなことは何もないはずだった。
…何より。
「…いーのかよ。パンケーキみてぇにふわふわトロトロにされてオレに喰われんだぜ?」
細い手首を掴んで引き寄せ、そう囁く。
小さく震えた冬弥が僅かな笑みを浮かべた。
「…彰人だから、良いんだ」
「…。…言ってくれんな」
冬弥の返答にハッと笑い、再びキスをする。
本日二度目のキスは、まだ食べてもいないのに甘い蜂蜜の味が、した。

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