あわあわ、ふわふわ、とろっとろ(ザクカイ)

ちなみに、いい泡の日は11月8日なので、入れ替え。

「?!!忍霧!忍霧!!」
「?どうした、鬼ヶ崎!」
風呂場から聞こえる、珍しく焦った声にザクロは読んでいた本から顔を上げた。
入浴剤を貰ったから試してみたい、というカイコクを「自分の部屋で試せば良いだろう!」と止めるも一向に聞かず…まあザクロも本気で止める気などは毛頭無く、あわよくば済し崩しにイチャイチャ出来るかも知れないと考えたのが良くなかったのだが…一体どうしたのか。
「大変な事になった!来てくんなぁ!」
「はぁ…?」
返される声は切羽詰まっており、揶揄われている訳ではなさそうだと風呂場に向かう。
「一体何があっ…」
「…悪ぃ…」
しゅんとしたカイコクは、年相応で可愛らしいな、とは思うが、それよりも周りの光景に驚いてしまった。
色付いた水を想像していた浴槽の水が泡だらけだったからである。
「…何を入れたんだ、貴様は…」
「…これ、でぇ…」
はぁ、とあからさまに溜息を吐くザクロにカイコクがそっと手渡してきたそれ。
「…泡風呂の入浴剤じゃないか?これ」
「…へ?」
「泡風呂。知らないのか?泡を浮かせた風呂のことだが…専用の入浴剤があってな。普通の入浴剤と効能に差はない」
きょとんとするカイコクの服を脱がせてやりながらザクロは説明する。
ついでに、自分も服を脱ぎ、シャワーでさっと身を清めた。
「まあ、そうだな。体験してみた方が早いのではないか?」
先に湯船に入り、手招きする。
ぽかんとしていたカイコクがおずおずと立ち上がった。
「…ひっ!」
「うわっ!」
片足を入れたままで躊躇するカイコクを引っ張り込む。
雪崩込んだカイコクとともにどぷんと湯に浸かった。
思ったよりも浅く湯を張っていたらしい。
「何すんでぇ!」
「貴様が遅いのが悪い」
振り仰いで頬を膨らす彼にいけしゃあしゃあとそう言い後ろから抱きしめた。
「…で?どうだ?初の泡風呂は」
「…。…まあ…悪くはねぇ、な」
「それは良かった」
ブスくれながらも風呂自体は気に入ったようで、次第にその表情が蕩けてくる。
「忍霧っ、忍霧っ」
「なんだ、鬼ヶ崎」
上機嫌で手に掬った泡を見せてくる彼に首を傾げた。
「これ、なんだ」
「…泡にしか見えないが…?」
「頭が硬いねぇ、お前さんは」
へにゃりと笑う、珍しい程に機嫌の良いカイコクにザクロも思わず小さく笑う。
「で?何なんだ、それは」
「分かんねぇかい?…キノコでぇ」
「…うん??」
にこにことそう言うカイコクに思わず固まった。
いつもならば「相変わらず芸術センス皆無だな、貴様は!」とでも言ってやるが、今日はいつにも増して上機嫌なのである。
「…そうか。…その…頑張った、な…?」
戸惑いながらもそう言えば、彼は嬉しそうに笑った。
まるで子どものように。
無邪気に、愛らしく。
「次は魚でぇ。…忍霧?」
「あ、あぁ。魚な、魚」
酔っ払ったとてこうはなるまい、と思いながらふとこの入浴剤の香りは何なのかが気になった。
あまり強い香りではないようだが…と思いながら空袋に手を伸ばす。
…と。
「おーしーぎーり!」
「うわっ!…鬼ヶ崎!」
くるん、と振り向いた彼がそのまま抱きついてきた。
シャボンがいくらか舞い上がり、消える。
「…なぁ、今日はシてくんねぇの?」
「…。…風呂ではしない、という約束では?」
こてりと可愛らしく首を傾げるカイコクにそう言ってやれば、彼はムッとした表情になった。
「俺が良いっつったら良いんでぇ!」
「…分かった。後悔しても知らないからな?」
はぁ、と溜息を吐き出し、ゆっくりと口付ける。
パシャリと跳ねた水泡が、溶けて消えた。


「…うー…。忍霧ぃ…水……」
「だから言っただろう。…少し待っていろ」
案の定逆上せたカイコクをベッドに寝かせ、ペットボトルを手に戻ろうとしたザクロは…ゴミ箱から入浴剤の入っていた袋を見つけ香りを確認してからすぐに戻す。
ぐったりした可愛らしい彼に水を持っていってやらねば、とザクロは見えないように笑った。

…猫はマタタビで酔うと言うのは真理だなぁ、等と思いながら。

(風呂好きにゃんこも稀にいるものだ、なんて、言えるはずもないけれど!!)

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