君を存分甘やかせ隊!(司冬/彰冬)

「やあやあ、一年生諸君!!青柳冬弥はいるかね?!」
放課後の教室に、ひときわ大きな声が響く。
うわ、という顔のクラスメイトたちの中で、きょとんとした顔の男が1人。
「…司先輩?」
名を呼ばれた冬弥が首を傾げていれば、司も彼を見つけたようで嬉しそうに入ってくる。
「お、今日はまだ教室にいたな」
「どうしたんですか?一年の教室に来るの、珍しいですよね」
不思議そうな冬弥に、不敵な笑みを浮かべた司が、見よ!と何かを差し出してきた。
「…クッキー、ですか」
「ああ!!冬弥、クッキー好きだったろう?しかも、オレ手作りのクッキーだぞ?!」
得意げに言う司に、冬弥が少しだけ目を見開く。
「…司先輩が?」
「そうとも!…実は、昨日咲希が学校の友人たちとクッキーを作っていてな。作り方を教えてもらったんだ」
「…咲希さん、良く教えてくれましたね」
「あー…まあな」
司にしては珍しく歯切れが悪いそれに冬弥が首を傾げた。
まさか、「甘やかしたい相手が居る」と言って教えてもらったんだとは言えない司が、それより食べてみろ!と強引に促す。
「…じゃあ…いただきます」
綺麗な指が袋の中に入ったクッキーを一枚摘んだ。
小さな口に含まれるそれを、わくわくした目で司が見つめる。
「…!コーヒーの味」
「おっ、流石だな、冬弥!分かるか!」
「はい。…美味しいです」
ふわり、と冬弥が笑んだ。
そうだろうそうだろう!と自慢げな司が冬弥の頭を撫でようとした…その時である。
「…何、してんスか。司センパイ」
伸びてきた腕が背後から冬弥を抱きしめた。
冬弥お気に入りのコーヒー缶を手に、超絶不機嫌そうに言うのは彰人である。
「…彰人」
「…なぁに、少しばかり可愛い後輩を甘やかしに、な」
「お気遣いどーも。でも冬弥を甘やかすのはオレの役目なんで」
バチバチと火花が散りそうな2人の間に困った顔の冬弥が残された。
「…俺は彰人に甘やかされたことはないんだが……」
「るっせ、今から甘やかすんだよ!…オレがお前の行きたいところに連れてってやる」
「それより冬弥。ブックカフェなるものが出来たらしいんだが、一緒に行ってくれまいか?」
振り仰ぐ冬弥に笑いかける彰人、それを遮るように誘う司。
「邪魔しねーでくれますか、司センパイ?」
「何?…たまには、オレの可愛い後輩を貸してくれたって良いんじゃないか?」
「残念ながら冬弥はオレの相棒なんでー。あ、前に隣町の大型楽器店に行きたいっつってたよな、冬弥」
「待て待てオレ抜きで話を進めるな!!」
煽り煽られ応酬を続ける二人に、あの、とおずおずと、冬弥が手を挙げる。
「…なんで今日はこんなに、その…色々してくれるんだ?誕生日でもないのに」
純粋な疑問にいがみ合っていた二人が顔を見合わせた。
だって、と声がユニゾンする。
二人が冬弥を、普段真面目でしっかりした彼を甘やかす…その理由は。


(今日は、10月8日、とうやの日!)

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