セカイの衣装バグが起こりまして(彰冬)

「あら、いらっしゃい」
「こんにちは、MEIKOさん」
「どもッス」
朗らかな笑顔で出迎えてくれたのはこのセカイで喫茶店を営むバーチャルシンガー、MEIKOだ。
だが、それ以外には誰もおらず、彰人と冬弥は顔を見合わせた。
「杏やこはねは、まだ来てないんだな」
「…それに、レンやミクもいない」
「ああ。杏ちゃんはこはねちゃんがちょっと具合悪いみたいだから送って行くって言ってたわ。レンとミクは…バグ修正、かしら」
くす、と笑うMEIKOに、バグ修正?と首を傾げる。
「セカイの持ち主の体調によって不調が出たりするのよ」
「…それ、大丈夫なのか?」
「あら、重要なバグならセカイに来れないよう対策するから大丈夫。それより、今日は貸し切りね」
嫌そうな顔の彰人に、衣裳室の鍵が投げて寄越された。
器用にキャッチし、彰人が「行くぞ」と冬弥に声をかける。
ぺこりと頭を下げる冬弥に手を振って見送るMEIKOは、電話の音にそちらへ向かった。
「はぁい、もしもし?」
『あ、MEIKO?彰人か冬弥来た?!』
「レン。今出ていったけど…」
告げた途端、電話の向こうのレンが何やら困った声を出す。
言い辛そうにしていたレンが意を決したようで、電話から声が聞こえた。
『実は今回のバグさぁ…』


さて、セカイの衣裳室には圧倒させる数がある。
普段のライブ衣装と変わらないものや、いつ着るんだというようなタキシード的なもの、和服など様々だ。
今回はスクールロックという衣装なようで、ならば普段の制服と変わらない気もするのだが…あまり着慣れないそれのネクタイをくるくると手で弄ぶ。
「…つか、遅いな」
彰人はぼんやりと冬弥が入っていった衣装室を見上げた。
同じ時間に入った割に、随分と遅い気がする。
衣装は同じなのだから、そんなに手間取るはずはないと思うのだが…と。
「…すまない、待たせた」
「おう、どうしたんだ…よ…」
カーテンが開き、出てきた彼に声をかけようとした彰人は思わず絶句する。
何せ冬弥は。
「…いや、違和感!!」
「彰人?」
こてりと冬弥が首を傾げた。
細い足は黒のハイソックスに包まれ、丈の短いブレザーとネクタイと同色のラインが入った膝丈のスカートがひらりと揺れる。
「お前も!ちょっとは疑問を持てよ!」
「…俺も、おかしいとは思ったんだが…どこを探してもこれしかなくてな」
困ったような冬弥に、マジか、と彰人は呟いた。
先程MEIKOが言っていたバグというやつだろうか。
「流石にこれじゃあ練習するのは無理だな」
はあ、とため息を吐き出す彰人に、冬弥はまた首を傾げる。
「何故だ。歌うのに支障はない」
「オレが!あんだよ!!!」
「っ!」
不思議そうな冬弥に思わず声を荒げた。
プラチナルチルクォーツのような瞳を丸くする彼をじろりと見る。
「あのなぁ、好きな奴がんな格好して隣で歌ってんのに気にならないわけねぇだろが」
「…そう、だろうか」
「そうなんだよ!つか、足出し過ぎ。他のやつが見たらどうすんだって…」
「…彰人だけ、だから…良いかと…思って…」
グチグチ言う彰人に、小さな声で告げられるそれ。
思わず目を見開き、口角を上げた。
「…彰人、悪い顔してる」
「するだろ、そりゃ」
抱き寄せ、キスをしながらスカートを捲り、太ももを撫でる。
「…ふ…ぁ…変態、っていうんだぞ、それ」
「お前がそんな格好してるからだ」
ムッとする冬弥に、いけしゃあしゃあと言ってやった。

好きな奴がこんな格好をする機会なんて、なかなか無いのだから。

(有効活用しないと、損だよな?)

「彰人ー!冬弥ー!バグ大丈ー…。…あれ、オレお邪魔?」
「おう、邪魔だな」
「れ、レン…?!…おい、彰人…!!」

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