毎週火曜日15時42分、君と此処で(彰冬)

「冬弥、コンビニデートしようぜ」
ざわざわした放課後、彰人のそれに冬弥は目をぱちくりとさせた。
「先週もしなかったか?」
「今週はチーズケーキ祭りなんだよ…」
はあ、と溜息を吐き出す彰人に、ああ、と冬弥が納得するように頷く。
周りのクラスメイトはいつもの事なので気にも止めていないようだった。
別クラスの彰人が教室に平然といるのも、男同士でデートというのも。
まああの二人なら、とかいう暗黙のそれがあるらしい。
ここまで浸透するのも有り難いな、と思った。
「…彰人?」
「ん、や。何でも」
首を傾げる冬弥に短く答えて傍に置いたカバンを掴む。
部活が始まるチャイムが、遠くで聞こえた。


「ありがとうございましたー」
コンビニ店員の声を背後に聞きながら、彰人は伸びをする。
「わりぃ、待たせた」
「…いや」
街路樹のすぐ脇、小さめのベンチで先に待っていた冬弥がふわりと笑みを浮かべた。
隣に座り、先程買ってきた大手コンビニ3社のチーズケーキを並べる。
「…見た目はどれも同じに見えるな」
「まあなー」
冬弥の感想に苦笑しつつ、彰人は袋を開けた。
こんなに苦労したのだから写メくらい撮るべきだろうかと悩むがどこか姉を思い出させたので早々に止める。
実は、最後の某チェーン店のチーズケーキがどこにも売っておらず二人で駆けずり回る羽目になってしまったのだ。
4店舗目で見つけた時は思わず冬弥とハイタッチしてしまった。
「つか、律儀に一緒に回らなくても良かったんじゃ…」
効率的にいくなら二人が別々に回った方が良い、と冬弥なら言いそうなものなのに、と不思議に思い聞いてみれば、彼が小さく首を傾げる。
綺麗な髪がさらりと揺れた。
「…彰人が、デートだと言うから」
「あ?」
「デートは、二人で一緒に行くもの、だろう?」
そう言う冬弥の、指通りが良い髪の隙間から見える耳が赤く染まっていて。
…レンや杏が見たら何と言うだろうかとぼんやり思った。
「…お前のそういうトコがさあ…」
「…??」
頭をがしがし掻きながら、彰人はため息を吐く。
可愛くて真面目な彼には、どうしたって敵わないのだ。
「何もねーよ。ほら」
ん、とチーズケーキの先を突き出す。
「…外だぞ」
「なんだよ、デートっつったのはお前だろ、冬弥」
「…そういう問題では…」
少し困った顔をしていた冬弥が小さく息を吐き出し、髪が口に入らないようにしながら口を開けた。
小さな口がチーズケーキを噛み取り、咀嚼する。
「どうだ?」
「…そう、だな。酸味と甘みが絶妙だし下のタルト生地も良い。俺は好きな味だが…」
感想を言いかける冬弥を引き寄せた。
ざらりと口の中を舐め上げる。
「…ふ」
「…オレも、だ」
とろんとした顔の冬弥に低く囁いてから離れた。
ぽや、とする冬弥を尻目にチーズケーキを齧る。
口いっぱいに広がる、爽やかなチーズケーキに舌鼓をうった。
後2つ分、次はどうやって食べようかと考えながら空を見上げる。

毎週火曜日、同じ時間同じ場所。
ささやかなデートは、二人だけの穏やかなセカイで。
…幸せだなぁなんて柄にもなく思ったのだった。


「わん、わんわん!」
「わぁあ、サモちゃん待ってぇえ!」
(その時間はすぐ壊されるということを、彰人はまだ知らない)

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