口内に火傷、さらにキス(彰冬)

「…なぁ、彰人」
「…んー?」
唐突に呼ばれて振り仰ぐ。
その、と困ったようにこちらを見るのは冬弥だ。
「どうした?」
「…今日、なんだが」
「おう」
「…キス、しないでもらえるか」
「…おー…。…は?」
彼が言うお願いに頷きそうになりながらも疑問符が浮かぶ。
キスをするな。
たった一言告げられたそれは彰人の機嫌を急下降するに充分で。
「よーし、ちょい待ち。まず、なんでキスすんなって言ったのか、訳を言え」
言葉が足らない冬弥に順番に聞こうと居住まいを正す。
「…実は、昨日MEIKOさんから大判焼きを貰ったんだ」
「おう、良かったな」
「ああ。…それで、食べた時に餡子で火傷をしてしまって」
「…あー…」
ゴニョゴニョと言い訳がましく言われたそれに、彰人はようやっと納得した。
それでもまだ不満は残るが。
「つか、なんでわざわざ禁止にしたんだよ」
「禁止にしないと不意にしてくるだろう。…牽制だ」 
ぶすくれながら疑問をぶつける彰人にさらりと言う冬弥。
彰人の性格を分かっているというかなんというか。
「どこ火傷したって?」
「…この、上顎の辺りだ」
そう聞けば、小さな口を開いて見せてくる。
なるほど、口内は赤く腫れていて痛そうに見えた。
…そしてそれ以上に。
「…んむ?!ふ、ぁ、ゃ、んんー…!!!」
ビクッと冬弥の躰が跳ねる。
抗議するように掴む彼の手が震えた。
先程見た、火傷の痕を丹念に舌でなぞる。
力が抜けてきた頃を見計らって下唇を食んだ。
「…ふぁ、あ…」
「…ごっそーさん」
リップ音を立てながら離れ、とろんとする冬弥に低く囁いた。
目元が赤く染まる。
「…。…痛いと、言ったのに」
「煽る方が悪いんだろ?」
むう、と珍しく不満そうな顔の冬弥にいけしゃあしゃあと言ってやった。

「…彰人」
「んだよ」
「…。…今後暫く、キスはなしだ」
「はぁ?!待て待てなんでそー両極端…冬弥!!」

怒れる恋人からのキス禁止令に慌てて名を呼ぶ。
冬弥にそれを撤回させるべく頭をフル回転させる羽目になった彰人であった。

(仕方ないだろ、素直に口を開けるお前に、ムラっとしたんだから!!)

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