セカイの邂逅で想う思いを(彰冬+レンカイ)

ストリートのセカイを、パタパタ走る人物がいた。
彼の名は鏡音レン…バーチャルシンガーだ。
3月ウサギよろしく、時計を見ながら遅刻遅刻!と走る、レンのポニーテールがひょこひょこ揺れる。
蒼い髪が見えてレンは、おぅい!と手を振った。
「KAITO、お待たせー!」
声を張り上げたはずなのに彼、KAITOは俯いたままだ。
あれ、と思う。
「KAITOー?!」
「…レン?」
近づき、もう一度声をかけるとようやっと顔を上げた彼が名を呼んだ。
「…あれ?冬弥?」
首を傾げたのは最近この世界にやってきた青柳冬弥である。
どうやら髪型や背格好が似ていたから間違えたようだ。
「あははー!ごめんごめん!間違えちゃった」
「…それは構わないが…。…約束していたんじゃないのか?」
「…あ」
冬弥に指摘され、レンはようやっと気付く。
「冬弥さ、青い髪のバーチャルシンガー見なかった?!ここで待ち合わせ予定なんだけど」
「青い髪の…?いや、見なかったが。本当にここなのか?」
「えー、確かにここだってー…」
不思議そうに首を傾げる冬弥に、約束を交したメールを見直した。
添付された画像と目の前の落描きを見比べる。
「…猫だね」
「…猫だな」
のぞき込んでいた冬弥と顔を見合わせそう言った。
画像は犬なのに、目の前にあるのは猫で。
「…致命的な間違いぃい…!!」
頭を抱えるレンに、冬弥が優しく笑んだ。
「今からでも間に合うんじゃないか?確か、この近くだったはずだろう」
「本当?!ありがと、冬弥!!」
手を振って駆け出そうとするレンを冬弥が止める。
「…一緒に行っても良いだろうか」
「…いいけど…なんで?」
「レンが間違える、その人に会ってみたくなった。それから、レンが迷わないように」
「…。…タスカリマス」
柔らかく微笑む冬弥に、レンが拝んだ。
さり気ない気遣いが出来る人だなぁと思う。
こっちだ、と案内されるまま走ればぼんやりとするKAITOがいた。
「あ、いたいた!KAITOー!」
ぶんぶん手を振れば、こちらに気付いたKAITOがにこりと笑う。
駆け寄った勢いのまま抱きつけば彼は、わっと小さな声を上げた。
危ないよ、というKAITOにえへ、と笑いそれから精一杯の謝罪をする。
「ごめん、遅くなって!」
「大丈夫、そんなに待ってないよ。…えっと?」
優しく笑ったKAITOが冬弥を見て不思議そうに首を傾げた。
「…青柳、冬弥です」
「冬弥くん。…こんにちは、始音カイトです」
にこっとKAITOが笑みを浮かべる。
それに、あ、と冬弥が声を上げた。
「…ドクターファンクビートの」
「あはは、気付いた?」
「KAITO、またその名前使ってんの?」
軽く笑うKAITOにレンが呆れたように言う。
その名前は確か随分前に使っていたようだが、どうやら冬弥たちと歌った時にも使ったらしかった。
「ふふ、たまには良いかなって。ごめんね。改めまして、KAITOです。よろしくね、冬弥くん」
「…よろしくお願いします、KAITOさん」
柔らかく微笑み手を差し出すKAITOに小さく笑みを浮かべた冬弥がそれを握り返す。
やっぱり似てるなぁと思った。
「…あのさ、二人ともおそろいの服着てよ!」
「…え?」
KAITOが不思議そうにこちらを見る。
冬弥もまた同じような顔で首を傾げた。
「…それで間違えるのはレンだけだと思うが」
「…ああ、そういうこと」
その発言にKAITOがくすりと笑う。
「あっ、言わないでよ、冬弥!」
もう!と怒ってみせるが次の瞬間にはケロッとした表情で、「それもあるけどさ」とピースサインを作った。
「二人が歌ってるとこ、見てみたいんだよねー!」
「…だ、そうだけど」
「…俺は、KAITOさんが良いなら」
「そう?じゃあよろしくね、冬弥くん」
「こちらこそ」
ふわりと二人が笑う。
着替えてくる、と手を振る二人にひらひらと笑顔出軽く手を振り、見えなくなってから表情を戻して「居るんだろー」と声をかけた。
「…んだよ、バレてんのかよ」
「バレバレだよ。…何してんの?彰人」
その声に、建物の陰から出てきたのは東雲彰人、冬弥の相棒でもある。
猫っ毛の髪をガシガシ掻きながら、別に?なんて悪びれる様子もなかった。
「冬弥がオレとの約束を破って向かう相手が誰か知りたかっただけっつーの」
「うーわ、彰人ってば独占欲強め?」
「どーだかな。ってか、それはレンもだろ」
軽く言う彰人にレンはん?と疑問符を浮かべる。
「抱きついた時こっち睨んでたくせに。…と、KAITO、だっけ?わざと待たせてんだろ」
「ありゃ、バレた?」
ニッと悪い笑みを浮かべるレンに、彰人は呆れたような顔をした。
そうだ、KAITOがこのセカイにいるのは珍しいから、わざと時間に遅れて自分と居る時間を長くしたのだ。
KAITOは、優しいから。
きっとレンの言うことは聞いてくれると。
「べっつにレンが独占欲強めなのはいいけどよ、冬弥まで巻き込むなよな」
「あ、歌ってるの見たいのは本当だよ。二人の声、合いそうだし。ダンスも映えるだろうし」
「…ま、それには同感するけど」
レンのそれに彰人が頭を支えるように手を組んだ。
どうやら今回は不問にしてくれるらしい。
「意外と猫かぶりだよな、レンも」
「彰人には言われたくないかなぁ」
くすくすと二人で笑う。
もうすぐ帰ってくるだろう二人を待ちながら。
少年たちの思いは、セカイの空に吸い込まれて行った。

「お待たせ、レン!見て、この服。差し色にレンの色が入っててね。冬弥くんのも相棒の色なんだってー…」
「KAITOさん!…遅くなってすまない、ダメージジーンズが意外と穿きにくくて…彰人?何故ここに」
「「チェンジで!!!」」

(少年たちの声がユニゾンする。

だって、こんなエロい服、許されるわけ無いだろ!!)

(そんな目で見るのはセカイでただ二人だけ!!)

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