R18を超えていけ!(彰冬)

「…なあ、ミク。この歌詞なんだが…」
「はいはーい。えっとねー」
いつものセカイ、いつものMEIKOの店で、割と珍しい光景が繰り広げられていた。
ミクと冬弥がこちらに気付くこと無く話し込んでいる。
普段はどちらかが気付くものだが…。
ここでイタズラ心がむくむくと湧いた。
少し、ほんの少しだけ脅かせば彼はどんな顔をするのだろう。
そぅっと背後に回り…冬弥が持っている楽譜のタイトル部分が目に入った。
それに目を見開く。
「…冬弥っ!」
「っ?!彰人?!」
思わず大声で呼び、目を見開いて振り仰ぐ冬弥に、ああそんな顔をするのかと思う暇もなかった。
だって、そのタイトルは。
「R-18ってなんだよ!!」
「…は?」
彰人の渾身の叫びに、冬弥がぽかんとした。
R-18、匂わせるなんてこともない、モロにそのままなタイトル。
どこで歌うつもりだったかは知らないがそんなことは許さない。
そんな、誰が、オレの冬弥にそんな歌詞を紡がせてやるものか…!
そう息巻く彰人とは正反対に冬弥は呆れ顔だ。
ミクがくすくす笑い、彰人の袖を引っ張る。
「…あのね、これ…『ルート18』って読むんだよ?」



「…タイトル詐欺じゃねぇかよ…」
はぁあ、と彰人がため息を吐く。
まさかの、国道18号線を自転車で走る歌、だとは誰が思うのだろう。
「…反省したか」
と、冬弥が呆れ顔でやってきた。
歌詞の件はもう良いらしい。
「はいはい、反省しましたー。…んで?今日は終わりか?」
「…それなんだが」
軽く返し、冬弥に振ってみれば彼は少し困った顔をした。
「…彰人、自転車は持っているか?」
「…そりゃあ、まあな」
唐突なそれに疑問符を浮かべながら答える。
そうか、と少し寂しそうな冬弥曰く、今回の歌が自転車こいでひたすら走る、という爽やかな歌詞なのに、自転車自体にロクに乗ったことがないらしいのだ。
昔からクラシック一筋で、厳しく教えこまれてきた冬弥は手を怪我してはいけないと禁じられてきたようで。
「あまり、感情移入出来ないんだ」
目を伏せる冬弥に、なるほど、と思う。
彼は完璧を目指すタイプだ。
彰人と並べる様にと頑張っている冬弥が努力を惜しんでいないのは知っている。
…だったら。
「…乗れば、いいんじゃねぇの?」
「え?」
「なんならオレの後ろ、乗せてやるけど」
驚く冬弥にそう言って笑った。
「流石に国道18号線までは行けないけどさ、好きなトコ連れてってやるよ」
「…!…すまない」
「おー」
ふわ、と表情を緩める冬弥に彰人はひらひらと手を振った。
自転車に乗るように、彼の思いが軽くなれば良いと思う。

「…彰人、速くないか…?!」
「んなことねぇよ。つかくっつき過ぎ。曲がれねぇだろー?」
「そんな、こと言われても…!」

焦る冬弥の声をBGMに、風をきった。
背中から伝わる温もりと、とくとくと聴こえる心音が心地良い。
「坂来るぞー、落ちるなよ!」
「えっ、まっ、まて、彰人!」
「待てるかっての!」
ふは、と笑い、坂を下る。
ひっと引き攣る声に背に掴まる力強い手。
…彰人の手を取ってくれた、手。
それだけで良い。
引っ張って、横に並んで、二人で走れば良いのだから。

『自転車こいで、ひたすら走る!』

(その先に二人の未来があると信じて!!)

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