セカイ(彰冬ワンドロ)

「…不思議だよな、セカイって」
ぼんやりとイヤホンコードを手で弄びながら彰人が呟いた。
小さな声だったから聞こえていないと思ったのに隣の冬弥にはばっちりと聞こえていたようで。
「…?何が不思議なんだ?」
首を傾げた、冬弥の髪がさらりと揺れる。
綺麗なツートンカラーのそれは触り心地が良く、彰人は何の気なしに手を伸ばした。
「…彰人」
「…いや。想いで出来たセカイっつーのがまだ信じらんねぇって話」
「あんなに出向いているのに、か?」
「だからだよ」
軽く笑いながら、彰人は秋風に揺れる冬弥の髪をそっと撫でる。
馴染みの感覚が手に伝わった。
「ミクもレンもリンもMEIKOさんも、この目でしっかり見てるし、声も聞いてる。セカイで飲んだ珈琲は美味いしな。だからこそ、夢じゃねぇんだな、ってさ」
「…だから」 
「セカイを受け入れてないわけじゃねぇよ」
何かを言おうとする冬弥に、彰人は先回りする。
彼はまたロジックがどうとかこうとか難しい話をする気だろうから。
「…なら」
「セカイどうこうより、冬弥と想いが一緒っていうのが改めて嬉しい」
「…!」
素直に口にすれば冬弥は冬空のような瞳を丸くさせた。
ややあってそれがやんわり溶ける。
「…俺もだ」 
他には見せない柔らかなそれで言うから、彰人は何だか照れくさくなった。
変に隠したりしない冬弥の言葉は、彰人の心にもよく染み込む。
あの夜を超えるライブを、という想いは同じなのだと…思うから。
「行こうぜ」 
「…ああ」
短い言葉を交わし、彰人が伸ばした手を冬弥が掴んだ。 
白い光が二人を包む。
見慣れたストリートが姿を表して、彰人は冬弥の顔を見合わせ、駆け出した。
まだ信じられないけれども、このセカイは二人の想いを改めて実感させてくれる場所。
それだけで良いと、思った。


「…なあ、想いってさ、邪な感じも有りなのか?例えば、エロいこととか」
「…彰人、まだ昼だしレン相手にそんな…」
「…流石に音楽に関係してなきゃ駄目じゃないかなぁ…まあ、催淫作用を付与させた曲を作るって想いを持った人たちがいるセカイがあったようななかったような」
「…」
「…いや、オレでもそれは流石に引くけどな……?」

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