彰人誕生祭

冬弥が何か隠している。

そう感づいたのは数週間前のことだった。
恐らく、彰人の誕生日について何か計画しているのだろう…杏やこはねとそんな話をしたのは記憶に新しい。
「後一日早かったらゾロ目だったのにねー!」と笑う杏や、「忘れずにちゃんと、おめでとうって言うね」と力いっぱい言うこはねを他所に何か考えていたから、その時からの計画に違いなかった。
だが、隠し方が露骨なのである。 
元々冬弥は、嘘は下手な方だから隠していたとてすぐに分かるのだ。
それでも内緒にして何かをやってくれているのは嬉しいし、有り難くはあるのだけれど。
「…クソッ、また逃げられた…!」
放課後、クラスに迎えに行った彰人はギリッと奥歯を噛み締めた。
これで3日連続である。 
冬弥が…彰人と一緒に帰らなくなって3日。
最初は良かったが今はイライラの方が勝っていた。 
こんなに顔を合わせないのはあの喧嘩、以来である。
あの時と違うのは練習では姿を見ることくらいで。
だが話そうとすれば杏やこはねに邪魔されるし、セカイではリンやレンが妨害してくる。
明らかな作為が見えているのは明らかだ。
「おっ、彰人じゃあないか」
話しかけてきたのは二人の先輩でもある、司であった。
彰人にとっては何となくイラッとするので揶揄う対象だが…冬弥はその司を尊敬しているらしいのだ。
何がそんなに良いのだか、とジロリと司を睨む。
「…なんスか」 
「機嫌が悪いな…。…冬弥からだ、受け取ると良い」
ほら、と差し出されたのは綺麗な手紙であった。
何故、と胡乱げに司を見れば、ニマーと悪い顔を浮かべていて。 
「…愛されているな、彰人は」
「はぁ?」
「では、オレは行くとしよう!」
意味深な言葉を残し、司が高笑いで去っていく。
止める暇もなかった。
受け取った手紙を開けば見慣れた綺麗な字で【WEEKENDGARAGEで待っている】と書かれてあって。 
さて何を用意しているのやら、と彰人はカバンを持ち直した。
ここまで避けられていたのだ…徹底的に説明してもらわなければ。


「…は?」
さて、彰人が見たのは信じられない光景だった。
冬弥が女子に囲まれている。
確か、こはねと同じ女子校の制服だったか…随分と仲良さげだ。
店の前で別れた後、冬弥は店の中に、彼女たちはこちらに向かって歩いてくる。
「とーやくん、上手く行くと良いね!」
「そうねぇ。沢山練習したもの、大丈夫なんじゃないかしら」
「最初はどうなるかと思ったけどね」
「まあ…咲希に比べたら…」
「あー!ひどーい!…」
きゃあきゃあと話す彼女たちから何となく距離を取り、彰人は店に入った。
「…」
「…!彰人」
ふわ、と小さな笑みを浮かべる冬弥は、黒いエプロンを着けていて。
奥から香るそれとリフレインする彼女らの会話、それに司の言葉全てに全てが繋がった。
…何故冬弥が彰人を避けていたのかも。
だが、それとこれとは話が別である。
「…んで?オレを避けてた訳を聞こうじゃん?」
「彰人のことだ。もうバレているんだろう?」
「お前の口から聞きたいんだよ、オレは」
困ったように言う彼にそう言えば、また悪い顔をして、とほんの少し拗ねたように言った。
これは、専売特許みたいなものだから諦めてほしいのだけれど。
「冬弥」
「…分かった。…彰人に、食べて欲しくて…ここのキッチンを借りて、小豆沢の友だちの…バンド仲間?が家事全般が得意だと言うから、教わったんだ。その…チーズケーキ、なんだが」
好きだろう?と首を傾げる冬弥に、ああ、と笑ってみせる。 
会えなくても、冬弥は彰人のことでいっぱいだったのだ。
ただそれだけで…嬉しい。
「…ありがとな」
「…いや」
微笑む冬弥を引き寄せた。
どちらともなく口付ける。

可愛い彼が自分のことだけを想ってくれる、今日は特別な誕生日。 


おめでとう、と言う小さな彼の声は、深いキスにとって消えた。

(手作りチーズケーキとその作り手は、主役が美味しく頂きました!)

name
email
url
comment