ワンドロ/誕生日

ほろりと口の中でチーズケーキが溶ける。
純粋に美味い、と思った。
彰人の誕生日、冬弥がプレゼントとしてくれたのは手作りのチーズケーキだったのである。
料理も碌にやったこともないだろう彼が自分のために作ってくれたという事実は、自然に口角を上げさせた。
「…どう、だろうか」 
心配そうに冬弥が聞く。
美味いよ、と言うと明らかにホッとした顔をした。
「…なあ…これ、誰に教わったんだよ」
咀嚼していたそれを飲み込み、ふとそう聞くと冬弥はああ、と何事もなく口を開く。
「小豆沢の友人…それと、司先輩の妹さんの、バンド仲間だ」
「…割と遠いな…」
教えられた情報は辿っていっても直接の関係ではなく、安堵したような何だか微妙な気分になった。
そういえば先程女子高生グループに囲まれていたっけか。
「つか、よく引き受けてくれたな?まさか冬弥が直接頼んだわけじゃないだろ」
「まさか。…最初はMEIKOさんに聞く予定だったんだが、セカイには彰人と鉢合わせする可能性もあったからな。小豆沢が気を利かせて聞いてくれると。相手も『お友だちの為に頑張りたいなんて素敵ですね』と了承してくれて、白石が開店準備を手伝うなら、と店のキッチンを貸してくれたんだ」
「…へえ?」
随分とまあ用意がいい、と頬杖をつく。
なるほど、このプレゼントは女子メンバーの全面バックアップがあったようだ。
「最初、向こうは俺が男だと知って驚いていたが、一つ一つ教えてくれてな」
ふわり、と冬弥が笑む。
何となしに面白くないな、と思った。
だが。
「…チーズケーキの作り方を教えてくれた彼女がな、このケーキを食べられる人は幸せですねと言ったんだ」
「…あ?」
冬弥の言葉に目をぱちくりと瞬かせる。
…何を、急に。
「…俺の…彰人への想いが存分に詰まっているからだと」
「…!」
表情を緩めて冬弥が言う。
…そんな顔で言うなんて…ずるいじゃあないか。
「なあ、食わせてくれよ」
「…え」
「お前の、オレへの想いが詰まった…オレの為に作ったチーズケーキを」
調子に乗ってみれば冬弥は仕方がないなと笑んだ。


今日は特別、の言葉と共に。
(だって今日はお誕生日様!!)

name
email
url
comment