風邪/ワンドロ

朝から変だな、とは思っていた。
助っ人で入っている部活動の合間に見かけた冬弥の、登校時間がいつもより遅かっただとか。
歩く速度が遅かっただとか。
いつもなら気にも止めない事象だった…はずなのに。
「…」
気付いたら部活動を中断させて冬弥を探していた。
元々助っ人だし…終わりかけだったから構わないだろう。
それよりも、相棒の違和感の方が大切だ。
冬弥は…なかなか自分を表出しないのだから。
「…どこだよ」
だが、教室にその姿はなく、思わず舌打ちする。
図書室にもおらず、ならばどこにいるのかと駆け出そうとしたその時だった。
「…おや」
「おっ、彰人じゃあないか!」
角を曲がった瞬間、金目を緩めた類とよっと手を挙げる司がいて、顔を顰める。
この二人に会うのも面倒だが…他の意図があるとするならば。
「…彰人」
振り向いた冬弥が、ひどい顔をしていた所為。
「…っ、来い!」
「えっ、あ…」
ツカツカと歩み寄り、冬弥の手を引く。
先輩二人の間を無理矢理割った。
「…な、なんだぁ?」
「フフ、王子様の登場といったところじゃあないかい?」
「ああ、そういう…」
二人のそんな声を背後に聞きながら、彰人は保健室に向かう。
朝の保健室には生徒どころか養護教諭もいないのを知っていた。
ガラリと扉を開き、冬弥をベッドに投げる。
「…っ!彰人!」
「…お前さあ、風邪引いたろ」 
されるがままだった冬弥が抗議の声を上げた瞬間、彰人はじろりと睨んでやった。
目を見開いた冬弥がふいとそれを静かにそらす。
図星かとため息を吐き出した。
「…なんで無理すんだよ」 
「…休めば、父親から何を言われるか分からない」
「だからって…あーくそっ」
目をそらしたままの冬弥に彰人は頭を掻く。
こういうのはどうにも苦手だ。
「取り敢えず、寝てろ。ちゃんとした理由があれば担任は文句ねぇだろーし」
「…だが」
「真面目も行き過ぎると悪だぞ、冬弥」
何かを言いかける冬弥の頬を撫でてやり、ベッドに寝かせる。
目元が紅いのは熱のせいか別の何かか。
「…寝ないなら襲うからな」
「何故そうなるんだ…?」
首を傾げ、目を緩めた冬弥はそのままうとうとと微睡む。
冬弥がこういう場面で窘めないのは具合が悪い証拠だ。
「…おやすみ、冬弥」
良い夢を、とその髪にキスを落とす。
早く良くなりますようにと願いを、こめて。
授業開始の合図が何処か遠くで鳴った。 

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