良い夫婦の日ザクカイ

「やあやあ諸君、今日は良い夫婦の日なんだぜ?」
得意げに言うユズに、何とも言えない表情で返したのはザクロとカイコク、そしてカリンだった。
そもそも他のメンバーはおらず…アカツキやヒミコがいればまた違ったのかもしれないけれど…予想通りとも言えるそれに、つれないにゃー!とユズは声を上げる。
「ユズ先輩は、それを私達に聞かせてどうしたいんです?」
「え、どうもしないけど。もしかしてカリリンが嫁になってくれる可能性が…?!」
「ありません」
目を輝かせるユズにカリンはあっさり言った。
それにくすくすと笑うのはカイコクである。
「相変わらずだねぇ、路々さん」
「おや、カイさんが嫁になってくれるかい?」
綺麗な黒髪を揺らすカイコクにそう言えば彼はきょとんとした。
「俺が?…旦那じゃなく?」
「えー、ボクだって旦那が良い」
ぶすくれたように言うユズにカリンが呆れたような目を向ける。
…と。
「くだらん」
小さくため息を吐いて立ち上がったのはザクロであった。
「ザッくん」
「俺は部屋に戻る」
カタン、と音を鳴らして立ち上がり、ザクロが部屋を出る。
「ちょっと待ちな、忍霧!」
それに、慌てたように追っていくのはカイコクだ。
へにゃりと笑い、こちらを心配させまいとする彼にユズも小さく手を振る。
「…どうしたのかしら」
首を傾げるカリンに、さあねぇ?と言いながら淹れていた紅茶に口を付ける。
それが確か、少し前の話。


次に違和感を覚えたのはその数日後であった。
廊下で二人仲良く歩いていた二人にやあ、と手を挙げる。
「相変わらず仲良しだよねぇ、二人は」
「そうかい?路々さんと嬢ちゃんたちだって仲が良いだろう?」
世間話、と話を振ればカイコクはにこりと笑ってそう返してきた。
相変わらず内情を明かさないなぁなんて笑う。
「ボクとカリリンとはまた違った仲良しだよねぇ。…ね、ザッくん?」
「…な、何故俺に振る…」
笑顔を浮かべて無邪気に言えばザクロは分かりやすく動揺した。
やはりこういう話題はザクロに振るに限る。
「えー?だってさぁ、カイさん教えてくれないしー?」
「…いや、あの…普通、だと思うが」
「その普通が分かんないんじゃないのさー!」
「…。…路々さん、うちの旦那を虐めるのはそれくらいにしてやってくんなァ」
と、それまで傍観に徹していたカイコクが笑みを浮かべてそう言った。
珍しいな、なんて思いながらユズは素直に身を引く。
…カイコクなら、そんな冗談、に乗ってこないと思ったのに。
「っ、鬼ヶ崎?!」
「はぁいはい。カイさんが言うなら止めるよ」
「英断どうも」
焦るザクロを余所にユズとカイコクは話を進める。
適当に次のゲームの話をして別れる。
「…何故あんな事を…」
「なんでェ、助けてやったんじゃねぇか」
「…だからといってだなぁ…!」
「そう言うない。なぁ、旦那さん?」
「貴様の旦那になった覚えは…!!」
…ザクロとカイコクが言い争う声を聞きながら。


それからまた数日後。
「…鬼ヶ崎」
「…ん」
ザクロとカイコクの声にふとそちらを見る。
談話室で何やら話している二人に、やっほーと手を振った。
こちらに気付いたカイコクが手を挙げてくれる。
「やあ、夫婦の時間を邪魔したかにゃ?」
冗談めかして言えばザクロが、ああ、と言った。
ん?と思っていればカイコクが「…忍霧」と窘めるように声をかける。
「…事実だろう。正式にはまだ夫婦ではないが」
「…まだって…わざわざ言うこともだなぁ…」
呆れたように言うカイコクに、直感的に悟った。
自分は割と本気で邪魔なのだと。
…早く去らなければこの二人に中てられてしまうのだと。
「…あはは、良い奥さんだにゃあ、ザッくん」
「だろう?…ああ、路々森」
「んー?」
じりじりと後退りしていたユズにザクロが目を細めた。
「この間は済まなかった。…邪険にしてしまって」
「あー、うん、構わないよ!じゃあボクはこれで!」
謝ってくるザクロに手を挙げ早々に部屋から出る。
「…良い夫婦、ね」
少し離れてそっと覗き見ながらユズは苦笑いを浮かべた。
やらないぞ、と口パクするザクロに、存外彼は執着心が強めなんだなぁと思いながら。
逃げるように部屋を出た際、見た事もないほど柔らかい笑みを浮かべたカイコクを思い出す。
「…似合いの夫婦ってやつかな」
小さく笑い、ユズは踵を返した。


入り込む隙なんてない、二人の関係は仲間というより寧ろ夫婦のそれ。

さて、その関係はいつから?

(それを考えるのは野暮ってものさ!)

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