花緑青(アキカイ)

雨が降っていた。
窓からそれをぼんやりと眺める。
それから、ちらりとベッドで眠る彼を見やった。
生きているのか分からないほど綺麗な表情で眠る彼。
名は鬼ヶ崎カイコク、という。
白磁みたいな肌に、漆黒の髪。
それでいて同色の瞳はいつも強く前を見つめている。
…ただただ、それを欲しい、と思った。
「…ぅ…」
「おはようございます、カイコクさん」
小さく呻く彼に、にっこりと笑う。
「…。…お前さん、は」
「良く寝ていたので起こしませんでした。大丈夫ですか?」
「…っ。元凶がよく言う。お前さんだろ?俺をこんなトコに閉じ込めたのは」
睨むカイコクに、なんだ、と笑った。
…バレているなら、もう隠すことはない。
「閉じ込めた、だなんて人聞き悪いなぁ。…ただ、手に入れただけじゃないか」
くすりと笑えばカイコクは余計に表情を歪ませた。
「…ここから出せ」
「駄目。…雨降ってるし」
「…は…」
微笑んで見せれば彼はぽかんとした表情を見せる。
素に戻る、彼のその顔が好きだった。
ほんの少し、『彼女』に似ている気がするから。
「…。雨がどうしたんでェ。俺はこんなとこにはいられねぇからな」
「なら、ご自由に」
敵意を見せるカイコクに手を広げてみせる。
別に彼を縛り付けているわけではないのだ。
だのに、カイコクは驚いた顔をする。
「…意外?でも、早くした方が良いよ。俺、そんなに気は長くないし」
微笑むと呆けていた彼がハッとして入り口に走った。
ガチャリ、とドアノブを回す音が部屋に響く。
「…は?」
ザァっと雨が降る音が、響いた。
カイコクの髪が雨に濡れる。
これぞまさに、翠雨だな、と思った。
「…嘘、か…」
「何が?」
小さく呟かれる声に、くすくすと笑う。
後ろから呆然とする彼を抱きしめて。
…アキラは、笑う。
「好きにしても良いと言ったけど、逃げられる、とは言ってないよ。…ねぇ、カイコクさん?」
「…っ!!なっ、ぁ、ぅ…!!」
笑って、睨む彼に口付けた。
雨の匂いが立ち込める。
…止むことの無いそれは、カイコクの自由を…自由に生きる権利を、奪った。

(だって、君が欲しかったんです。


猫のように自由な彼を…雨の中閉じ込めてまで。

自由を与えて仲間を与えて、希望を見せて。

…絶望に染まった…君を)


花緑青がカイコクの瞳に映る。


それは、逃れる事ができない…愛の色。

人はそれを狂気と…そう、呼んだ。

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