夢の続きを(彰冬)

カランカランと鐘が鳴り響く。
あ、と思った彰人の目に映る、プラチナ色の玉。
「おめでとう御座いますー!3等ですね!」
係の人に明るく声をかけられ、ハッとする。
買い物に出た先の商店街で福引をやっていた、軽い気持ちで回した結果が…これだ。
普段は当たらないくせに、と1人ごちながら渡された封筒を受け取る。
中身を確認すれば、フェニックスワンダーランドのペアチケットであった。
最近よく縁があるな、と頭を掻く。
「…絵名にやるか」
小さく呟き、買い物袋に突っ込んだ。
この前メンバー4人で行ったばかりのその場所は、思ったよりも楽しめたが、そう何度も行くものではないと思う。
増して、彰人は高校生男子だ。
小さな子どもでもあるまいし、今更遊園地にテンションが上がる性格でもない。
こういうのは、姉である絵名の方が喜ぶだろう…写真映えもするし。
「…」
ふ、と思い浮かんだのは相棒であり恋人の冬弥の顔だった。
今まで遊園地なんて来たことがないと珍しく嬉しそうだった彼は帰り間際に何か名残惜しそうにしていたのだ。
あの時は何も聞かなかったが…心残りでもあるのだろう。
「…しゃーねーな」
買い物袋に突っ込んだそれを取り出してポケットに仕舞い直す。
さてどうやってあの真面目な彼を誘い出すか、と頭を巡らせた。



「…相変わらず賑やかだな、ここは」
「そーだな」
そして、次の日曜日。
嬉しそうに頬を緩める冬弥に、彰人は短く返す。
福引で当てた、とチケットを渡した際、彼は凄く喜んだのだ…態度には出なかったが。
二人だけ、というのに申し訳無さもあったようだが、「行きたきゃ行くだろ、近所だし」という彰人のそれに納得したらしい。
テーマソングが流れる中、人でごった返したそこは秋も深まっているというのに熱気が凄かった。
「つか、なんでこんな混んでんだ?今日」
「…知らないのか?」
行きたかった場所がある、と珍しく地図を持ち先を歩いていた冬弥がぼやく彰人にきょとんとする。
「あ?」
「今日は、クリスマスナイトの初日だ。…大きなイベントの初日と最終日はチケットを取るのが大変だと…小豆沢が言っていた」
クリスマス、という言葉になるほど、と思った。
曰く、春のイースターや夏のサマーフェスティバル、秋のハロウィンと同様、かなり盛り上がるものらしい。
「夜、ツリーをあの観覧車の上から見ると幸せになれるとか」
「…へえ?」
何故そんなことを知っているんだ、なんて思うが敢えて口には出さなかった。
恐らくこはねか…あの懐いているセンパイにでも聞いたのだろう。
こはねはともかく、センパイだと無性に腹が立った。
「行ってみるか?」
「…俺が高い所苦手なの、知っているだろう」
だがここで不機嫌になったとて質の悪い八つ当たりにしかならない。
代わりにそう言ってやれば冬弥はほんの少しだけ眉を顰めた。
冗談だよ、と笑う彰人に、冬弥は小さく息を吐く。
「…俺は、彰人の横に居られるだけで幸せだからな」
ふわ、と笑みを見せる冬弥に目を見開いてはぁあ、と大きなため息を吐き出した。
…まったく、彼はこれだから!
「…?彰人?」
「別に。…で?何処に向かってんだ?乗り物じゃねぇんだろ?」
「ああ。乗り物は前に気になるものは乗ったからな。…フェニックスワンダーランド限定の、パンケーキがあるらしい。この時期限定の珈琲フレーバーがあるらしいんだが…前回は混んでいたから」
冬弥の言葉に、ああ、と頷く。
「前はあんま見てなかったけど…そんなんあるんだな」
「ああ。彰人と行きたくて…少し、調べた」
笑みを浮かべる彼はとても可愛らしかった。
これで無自覚なのだから本当にどうしようもない。
そういえばチケットを渡した時、「冬さ、乗り物得意じゃねぇけど行くか?」と聞いた際に「俺は彰人と出かけるのが楽しいから、良いんだ」と言っていたっけ。
嬉しそうにしやがって、と思いながら彰人もまんざらではなかった。
こうやって、行きたい場所を調べているくらいには楽しみにしてくれていたようだし。
食べながら歩く、ということがどうも苦手らしい冬弥はカフェスペースがある方が良いのだろう…珍しく急いでいると思ったら。
「んじゃ、早く行こうぜ。今日は時間もゆっくりあるしな」
「…ああ。…っ」
彰人に頷いた冬弥が一瞬、人波に飲まれそうになった。
危ない、と慌てて手を伸ばす。
「気を付けろよ。今日は混んでんだから」
「…すまない」
手を掴み、そのままぎゅっと握った。
何処かでショーが始まったのだろうか、シャボン玉やら紙吹雪やらが辺りを舞う。
たまにはこういうのも悪くないな、と思った。


夢のような場所で、柔らかく笑う彼と二人

(ここはフェニックスワンダーランド!)

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