ポッキーの日!(類冬)

少しからかってみたくなったのさ

【図書室のお人形さん】を


「やあ、冬弥くん」
「…神代先輩」
本を数冊持ち、そろそろ委員の仕事が終わる、彼の元へ行く。
名を呼べば彼はふわりと顔を上げて、綺麗な口を類の名の形に作った。
最初に会ったのは、随分前だったような…そうでもないような。
どうかしましたか?と聞く冬弥に「何でもないよ」と笑いかけてから貸し出しするために本をカウンターに乗せる。
「…お菓子の本、ですか」
「少し、演出に加えてみようかと思ってね。直接は関係ないのだけれど」
貸し出し作業をしながら目を留める彼にそういうと、そうですか、と冬弥は小さく笑みを見せた。
「…。…そうだ、冬弥くんは今日が何の日か知っているかい?」
お菓子と言えば、と今日自慢気に披露された知識を、冬弥にも聞いてみる。
だが、彼は知らなかったようで首を傾げた。
綺麗な、ツートンカラーの髪が揺れる。
「…今日…ですか、すみません、分からないです」
「フフ、今日はポッキーの日だよ。ほら、11月11日、棒が並んでいるように見えるだろう?まあ、企業戦略、というやつだね」
素直な冬弥に答えを教えてやり、そういう訳で、とカバンに入っていたポッキーの箱を取り出した。
「…。…図書室は飲食禁止ですよ?神代先輩」
「まあまあ。バレなければ大丈夫さ。それより、ポッキーゲームをしないかい?」
「…ポッキーゲーム、ですか」
きょとんとする彼は何も知らないようで。
…ふと、からかってみたくなった。
「ルールはかんたん。君は箱の中に入っているポッキーを何本か取る。僕はその数を当てる。せーので取り出した数が僕の言った数字より多かったり少なかったりしたら君の勝ち。ピタリ当たったら僕の勝ちだ。簡単だろう?」
にこっと笑ってみせると、冬弥は小さく考えるそぶりをする。 
まさか、あの冬弥がポッキーゲームを知っていると思わないのだが…と。
「…それ、神代先輩が圧倒的に不利なのでは?」
「…!…確かに、確率論でいえば難しいかもね。だから、1~5本と制限を付けようじゃないか」
「…」
「負けた方は勝った方のお願いを一つ、聞くんだよ」
シンプルで明解なルールだ、と笑みを浮かべれば、冬弥は小さく息を吐き出し、分かりました、と言った。 
司の様、とまでは言わないが意外と彼もチョロいのだなぁとポッキーの箱を差し出す。
白い指が箱の中に吸い込まれた。
「取ったかい?ではいくよ。せーの」
類の掛け声に合わせ手が引き抜かれる。
「2だ」という類の声と二本のポッキーが箱から出るのはほぼ同時だった。
「…!」
「フフフ、僕の勝ちだね」
驚きに目を見開く冬弥に笑ってみせる。
確率論からして大体を導き出しただけだったが、まさか当たるとは思わなかった。
彼もそうだったらしいが諦めたように類に向き直る。
「…神代先輩の、お願いは…」
「…。…そうだねぇ。…目を、瞑ってもらえるかな」
「…こう、ですか?」
素直に目を瞑る彼に小さく笑った。
無防備だねぇと肩を揺らし…ちゅ、と小さな口にキスを落とす。
ポッキーは食べていないのに、甘ったるい気が、した。
「…っ」
「ごちそうさま、冬弥くん。それじゃあ僕はこれで…っと?」 
にこりと笑い、貸し出し処理された本を持って部屋を出ようとしたその時である。
くん、と上着の裾を引かれ、類は振り向いた。
そこには耳を真っ赤にさせた冬弥がいて。
「…冬弥くん?」
「…。…俺の、番はまだです」
「…!」
冬弥のそれに、今度は類が目を見開く番だった。

司は言っていた、「冬弥は存外頑固だぞ?」と。
彰人は言っていた、「冬弥は見た目以上に負けず嫌いだよな」と。

口角はゆわりと三日月を作り、本は再びカウンターに置かれる。
「…そうだね。勝ち逃げ、という言葉もあるけれど…フェアじゃないのは僕もあまり好きじゃないから」
どうぞ、と先程仕舞ったポッキーの箱を取り出して冬弥に渡した。
勝負の行方は、ハラリと捲られた物語の一ページだけが知っている。


(気ままな錬金術師は存じなかったのです。
図書室のお人形さんが、綺麗なだけではないということを)

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