セカイの衣装バグが起こりまして ケモ耳編(1122の日の彰冬)

セカイにはバグがある…らしい。
想いの持ち主の体調不良だったり、音楽機器の不調だったり、その辺は曖昧だ。
だが、唐突に、意図せずに起こる。
それは、ほら、今回だって。

「だーからさー、注意したじゃん」
バーチャルシンガーでもある鏡音レンがぶすくれたように言う。
明るい黄色の髪からはピコピコと【黒い犬耳】が揺れていた。
レンはただのバーチャルシンガーだ。
獣人とかそんな設定はないはず…だったのだけれど。
「彰人、きーてる?!」
「聞いてる。…大体、あんなもん注意って言わねぇだろ」
もう!と怒ったようなレンにがしがしと髪を掻き、彼の注意とやらを思い出しながら答える。
レンは、「来ても良いけど、どうなっても知らないよ?」と言ったのだ。
そう言われれば極々普通の一般男子高校生とすれば気にならない訳がなく、まんまとセカイに足を踏み入れていたのである。
「冬弥ぁ、彰人がぁ!!」
彰人は正論だと思うのだが、レンはそう取らなかったようで、うわぁん!と冬弥の方に抱き着いた。
少しだけ驚いた顔をしていた冬弥はふっと表情を緩め、レンの頭を撫でる。
ゆらゆらと、冬弥に生えた猫のしっぽが揺れた。
そう、今現在冬弥には猫のしっぽが…ついでに耳も…生えている。
それは自分も例外ではなく。
「彰人、レンを虐めるのは駄目だと思う」
「虐めてねぇよ。正論だっつー」
「幼子を正論でぶっ叩くのは良くないと思いますぅー!」
「おまっ、設定年齢は14だろーが!」
冬弥に抱きついて、んべ、と舌を出すレンに思わず大きな声を出せば、彰人、と窘められてしまった。
怒られたー!と笑いながらレンが冬弥から離れる。
ぴょい、と身軽に走っていく彼は犬より猫のほうが近いのではないかと思った。
まあ冬弥にじゃれついている様子はまごうことなき犬なのだけれど…それは置いておいて。
「いつまでもこのままって訳にはいかないし、ちょっと見てくるね。二人とも動いちゃ駄目だよー!」
「ああ、分かった」
「へーへー」
走っていくレンにきっちり頷く冬弥と適当に手を振る彰人。
犬化した少年が見えなくなった途端、彰人は、はぁあとため息を吐き出した。
「…?彰人?」
「とんでもねぇバグに巻き込まれたよなぁ…」
不思議そうにこちらを振り仰ぐ冬弥の肩口に顔を埋め、彰人は呟く。
それに、冬弥はああ、と小さく笑った。
「…んだよ」
「…いや。彰人は、自分が犬に変わる分には存外平気そうだ、と」
じろりと睨めば冬弥が柔和にそう言う。
考えないようにしていたのに、と嫌そうな顔をしてみせた。
そう、彰人にはレンと同じく犬耳としっぽがついていたのである。
苦手な犬になるとは、何の因果だろうか。
「…冬弥が犬じゃなくて良かった」
「…俺も、猫で良かった」
ふわりと微笑み、冬弥が彰人の頭を撫でる。
「猫だから、彰人にこうして触れられる。彰人が触れてくれる」
「…お前なぁ」
柔らかい言葉に他意がないのは知っていてだからこそ呆れてしまった。
こうやって煽っていることを、知らないのだろうか。
「なぁ、せっかくだし、このままシねぇ?」
「…。…レンとの約束がある」
「真面目。…お前だって興味あるだろ」
すり、と冬弥のしっぽの先を指でこする。
ひ、という小さな声に彰人はにまりと口角を上げた。
「…なあ、冬弥」
「…っ!!!」
低く猫耳に囁いた途端、ゾクゾクと躰を震わせた冬弥が小さく息を吐き、こちらを睨む。
「…外ではしにゃいと言って…!」
「…にゃ?」
「…あ」
彰人の小さなそれに冬弥はハッと口を手で塞いだ。
これ幸いと顎を掬い口をふさぐ。
「はぅ、んむ、んぅ……っ!!」
弱いところを擽ってやって尻尾の付け根を擦ればとろんとした冬弥の出来上がりだ。
「…その気、なっただろ」
「…。…ばか」
ほんのりと肌を赤く染めた冬弥を抱き上げる。
少しなら動いても大丈夫だろうと彰人は路地裏に入った。
そういえば、と誰かが言ったそれを思い出す。

今日は11月22日。

適当な語呂合わせ。

「彰人?」
「んや、別に」
首を傾げる冬弥に触れるだけのキスをして。
このバグは偶然ではないのだろうか、なんて思った。

(だって今日はわんわんにゃーにゃーの日!!)

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