1123の日のレンカイ

「…あ」
スマホの画面を見ていたレンが声を上げる。
どうしたの?と覗き込むのは兄であるカイトだ。
「星4の兄さんが出た」
「星4の俺?…あ、本当だ」
ほら、とそれを見せれば不思議そうだったカイトがへにゃりと笑顔を見せる。
プロジェクトセカイ、というタイトルのそれは【初音ミク】の楽曲をリズムゲームにしたものだ。
【初音ミク】はマスターの数だけいるため、リズムゲームになることもよくある。
一種のコンテンツであるから、特に気にしたこともなくこのゲームも楽しく遊んでいた。
…まあ、自分と同じ声が画面の向こうからするのは不思議ではあるけれども。
「プロジェクトセカイの兄さんはさぁ、しっかりしていて頼りがあってザ座長って感じだよね」
「まあねぇ。それが向こうのKAITO、だし」
「おれは、おれの兄さんが好きだけどね」
苦笑しながら洗濯物を畳むカイトにレンはあっさりと言う。
「うん?」
「だから、うちのおっとりしてて優しくてちょっと小悪魔な兄さんが好きってこと」
「…褒めてる?それ」
「え、全力で褒めてんじゃん」
くすくすと笑うカイトにレンは画面から目を離した。
リズムゲームにもいくつか種類があって、それ毎にも人格は違う。
一人称ですら違うのだ、当然と言えた。
だからこそ余計に思う。
うちの兄、始音KAITOが一番なのだと。
「兄さんは?」
「え?」
「プロジェクトセカイのレンとおれとどっちが好き?」
逆に聞けば彼はうーんと悩む。
悩むんだ、と思いながら答えを待った。
「…プロジェクトセカイにはレンが二人いるよね。…バーチャルシンガーとしてのレンを含めば三人なのかな?性格も色々だし、一人称も違うけど…」
「…けど?」
「…やっぱり、俺は今目の前にいるレンが、良いかなぁって」
ふわ、とカイトが笑う。
思わず固まってから大きなため息を吐き出した。
…これだから、この兄は!
「レン?」
「兄さんはさぁ、無意識に弟煽るの良くないと思うよ?」
「煽ってないよ!…それに、カイトってレンに呼ばれるのもちょっと違和感あるし」
笑顔を見せるカイトには敵わないなぁと思う。
そんな可愛い顔を見せられたら何も言えないじゃあないか。
「別に呼び捨てにしたって構わないけど?」
「うーん、もうちょっと遠慮しようかな」
スマホの画面を閉じて言うレンにいたずらっぽくカイトが笑う。
…やはりうちのカイトが最強だな、と改めて実感した。
「…今でもドキドキするのに、呼び捨てにされたら良い兄で居られなくなりそうだし、ね?」

色んなコンテンツの鏡音レンよ、うちの兄は今日も全力で良い兄さんです!!

「なぁ、うちの兄さんが最強に可愛いって自慢しに行きたい、ミク姉ぇ辺りに」
「何で身内に自慢するの…。あと、最近ルカとすれ違ってて色々駄目っぽいからやめた方が良いよ」

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