1123の日のラセタバ

僕も兄が欲しかったんだ。

…タバサみたいな、優しい兄が。



ラッセル、と呼ぶ声に金髪を揺らして振り返る。
フードを揺らして駆けてきたのはタバサだ。
「…どうしたの?」
「どうしたの、じゃないだろー。ガーデニアから聞いたけど、ちょっと無理したんだって?」
もー、とタバサが言う。
何をそんなに怒っているのだろう。
不思議に思いながら彼を見つめればタバサはふっと表情を崩した。
「ラッセルが強いのは知ってるからさ、もうちょっと年上を頼れよなぁ。俺ら、ご近所さんだろ?」
「…」
「…それとも、俺は頼りない?」
なんてなー、なんて少し茶化しながら言うタバサに首を振る。
タバサは誰よりも頼りになる人だ。
頼りになって、こんなラッセルに親切にしてくれて…底抜けに優しくて。
…あっさり隙を見せて殺されてくれて。
「…タバサ」
「ん?どうした、ラッセル」
優しく、タバサが微笑む。
綺麗な笑みで。
あんなことなんてなかったかのように。
なんでもない、と首を振れば少し考えてタバサは「うち来るか?」と言った。
猿がいるからあまり行きたくはないのだが、と迷っていれば、タバサは小さく笑う。
「今は猿たちも散歩に行ってるんだ。暫く外に出してやらないと怒るから…その間だけでも俺の相手をしてくれないか?」
安心させるように言うタバサに、どこまで優しいのだろうと思った。
…父親のようにクズだったらこんな思いはしなかったのに。
…母親のように無関心ならこんなこと考えずに済んだのに。
「…タバサが、お兄さんだったらな」
小さく呟いたそれは本人にも聞こえたようで、照れたようにへにゃりと笑った。
「俺も、ラッセルみたいな弟がいたら毎日楽しいだろうと思うよ」
タバサが言う。
ラッセルの気持ちも知らないで。

こんな兄がいたら、ここまで落ちぶれずに済んだだろうか。
こんな兄がいたら、HAPPY DREAMなんて知らなかったろうか。
こんな、兄がいたら。

夢物語だ。
くだらない、と思う。 
…だからこそ。
「ねぇ、タバサ」
「ん?どうした、ラッセル」
「…この街のこと、色々教えて」
ラッセルは言う。
この優しい人を手放したくないから。
「…!勿論!」
タバサが笑って手を伸ばす。
その手を迷いなく、取った。

だって、なあ。

(猿が嗤う


お前の兄じゃないだろ、なんて)

彼のそばを離れたくないんだ。


(それを壊したのはお前自身!!)


風が吹く。
タバサのフードをはためかせ、不穏なそれは二人の間をすり抜けた。

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