ワンドロ/文化祭

相棒が随分浮かれている。
そう感じたのは最初に一緒に帰るという約束を断られてからだ。
「すまない、彰人。…今日はわたあめの練習をする日なんだ」
僅かに微笑んだそれで言われてしまえば、いいけど、と言わざるを得ない。
ただでさえ冬弥は行事事には参加できなかったのだ。
彰人がとやかく言う筋合いはなかった。
出来たら見せろよ、なんて言って冬弥と別れる。
ほんの少しだけもやもやしたそれを抱えながら、彰人もバイトへと向かった。


「あ?冬弥から?」
バイト終わり、冬弥からメッセージが来ているのを見つけ、珍しいなとスマホを取り上げる。
彼がバイト中にメッセージを送ってくるなんて、あまりなかったのに。
「うわっ、すげっ」
送ってきていたのは写真で、タップして開いた途端犬の形の綿飴が目に飛び込んでくる。
本格的な機械を借りたんだ、とか、ザラメはネットでカラフルなものを買うそうだ、とか楽しそうに話していたからどんなものかと思えば、想像よりもカラフルで大きいそれが写真の中で存在を放っている。
前にも見せてくれた事があるが…その時より完成度が上がっている気がした。
さすが真面目なだけあって何度も練習したのだろう。
『上手く出来た』とだけ書かれたメッセージにどんな感情を向けて良いのか分からなかった。
絵名が喜びそうだ、なんて現実逃避をし、彰人はスマホをカバンに突っ込む。
お疲れ様っしたぁ、と気の抜けた挨拶をし、店を出た。
…と。
「…彰人」
「…はっ?冬弥?」
今来たばかりなのだろう、少し息を切らせた冬弥がいて、彰人は驚いて彼を見る。
なんで、と聞けば冬弥は僅かに微笑んだ。
「…今日、一番上手く出来たんだ。…彰人に、見てほしくて」
「…メッセージくれたろ。前にも写真で見せてくれたし」
「…。…実際に、見て欲しかったんだ」
眉を下げ、可愛いことを言う冬弥に、そういうとこ、と思う。
彰人?と首を傾げる冬弥と同じようにくまの形をしたわたあめが揺れた。
「…良いんじゃねぇの?」 
「…」
「良く出来てる。つか、相変わらずすげぇなこれ…冬弥が作ったのか?」
「ああ。型はあるからな。最初に比べると随分上達したと思うんだが」
「最初から凄かったけどな」
そういえば冬弥は小さく微笑む。
嬉しそうにすんな、と思いながら彰人も僅かに笑みを浮かべた。
彼の微笑んだそれは綿飴みたいだと思いながら。
食べてもいないのに、甘いなぁと空を見上げた。


「何個か作ったんだが…やはり、くまさんが一番上手く出来る…彰人?」
「…いや、お前さぁ……それ反則だろ…」

(不思議そうにこちらを見る彼が可愛いなんて、

自分も相当文化祭に浮かれているらしい!)

name
email
url
comment