クリスマス司冬

ほう、と寒空に息を吐き出す。
クリスマスショーが無事に終わったのだ、息をついても良いだろう。
「あれ、まだ着替えていなかったのかい?」
ひょこりと顔を出したのはキャスト仲間であり演出担当の類だ。
「おお。…今日はこのまま借りていこうかと思ってな」
「?家でクリスマスパーティでも?」
「む、流石に家での衣装は別のものがあるぞ?」
首を傾げる類に司は言う。
司くんらしいねぇ、とくすくす笑う類は、なら…と言葉を紡ぎかけた。
そんな類に向かってニッと笑って手を上げる。
「なぁに、見習いサンタが行くところというのは相場が決まっているだろう?」


雪がチラつく中、司は走る。
着く前にメッセージをひとつ。
空飛ぶソリがあれば楽なのに、なんて思った。
類に頼めば作ってくれるかもしれない。
目的地に着き、大体この辺りだったか、とそこに立った。
と、同時に窓が開いた。
「…?!!司、先輩…?!」
「メリークリスマス、冬弥!」
目を見開く、可愛い後輩兼恋人に向かって手を広げる。
何かを言おうとして失敗した冬弥が、代わりにすぐ行きます!と言った。
「そんな回りくどいことをせずとも良いだろう!」
「え」
「飛び込んで来い!」
バッ!と腕を広げる司に冬弥は困惑顔だ。
冬弥がいるのは2階で、そんなところから飛び降りるなんて不可能である。
ただでさえ冬弥は高所恐怖症なのだ。
無理に決まっている。
それでもなお腕を広げ続けた。
そうして。
「オレを信じろ!」
きっぱりそう言うと冬弥は震える体でベランダの柵を乗り越える。
風に煽られ、ふわりとそれが傾いた。
すかさず足のスイッチを押し、クッションを作動させる。
自身の体が浮いて、落ちる冬弥を軽々と抱きしめることができた。
「…せ、んぱい?」
「言っただろう、オレを信じろ、と」
腕の中の冬弥を抱きしめる。
はい、という柔らかな声を聞きながらクッションの空気を徐々に抜いていった。
「しかし、冬弥には怖い思いをさせたな。すまなかった」
「そうですね…」
「…う、怒っていないか?冬弥」
思いもよらず肯定が返ってきて、恐る恐る聞き返す。
ぎゅう、と抱きついてくる冬弥の表情は伺い知れなかった。
「すまない。見習いサンタという役柄に浮かれ、お前の気持ちを確かめなかった。許してくれ」
「…。…怒っては、いません。先輩なら受け止めて下さると…思っていましたから」
「…そうか!良かった!!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめ、ほっとした気持ちを伝える。
重ねた体から心音が聞こえてきて司はまた笑顔になった。
「良い子の冬弥には特別に見習いサンタであるオレからクリスマスプレゼントを贈ろう!」
「…え、と…先輩…?」
「…メリークリスマス、冬弥」
微笑み、そっと口付ける。
ごくごく軽いものであったが、冬弥の頬がピンク色に染まった。
それを、とても愛おしいと思う。

聖なる夜、雪降る街で特別な歌を、きみに。
(見習いサンタクロースだって、プレゼントが欲しいのです!)

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