いちゃいちゃ司冬

「お兄ちゃん!アタシ、今日はいっちゃん達とテスト勉強のお泊り会なの!だから、お留守番、宜しくね!」
妹である咲希が笑顔で言う。
任せろ!と胸を張るも、まだ心配なのか咲希は、そうだ!と笑った。
「お兄ちゃん一人だと寂しいかもしれないし、お兄ちゃんもお泊り会したらいいよ!…とーやくんとか、同じ学校なんでしょ?」
無邪気にそう言ったのは、両親も旅行に出かけているから、とかいう単純な理由だろう。
冬弥の名を出したのも、兄の知り合いだからだ。
何の他意もない、はず。
そう思いながら司は曖昧な返事をした。


さて、妹である咲希は知らないだろうが…司と冬弥は恋人同士である。
まだキス止まりだが…これは良いチャンスなのでは、と早速電話をかけた。
「…もしもし?冬弥か?すまんな、突然」
『いえ。…どうしたんですか?』
数コールで出てくれた彼に、泊まりにこないかと誘う。
両親や妹がいないことと、冬弥が来てくれると安心なのだが、と伝えれば、『司先輩が良いなら』と返してきた。
それから1時間もしない内に家のインターホンが鳴る。
「…お邪魔します、司先輩」
「ああ、よく来たな、冬弥!」
私服かと思えば何故か制服で来た彼に、司は不思議に思いながらもにこりと笑った。
聞けば「明日も学校なので…」とまあ彼らしい答えが返ってくる。
荷物も最小限だから、必要最低限しか持ってきていないようだ。
「…先輩の家、久しぶりですね」
「ん?ああ、そういえばそうかもしれないな」
きょろきょろとする冬弥に小さく笑い、司は自身の部屋に連れて行く。
「…冬弥」
「…?…は、い…っ?!」
無防備な彼をベッドに押し倒した。
それ目的で呼んだみたいではないか!と思うが、もう止められない。
2年と1年、学校ではチャンスがないし大体道徳的に問題があった。
ラブホテルなんて以ての外で、だからって司は冬弥が卒業するまで待つ気もなかったのである。
少し性急過ぎたか、と目の前の彼を見れば、何をされるかこれだけで分かったのだろう、ほんのり頬を染めていた。
「…いきなりすまない、冬弥。嫌だったらしない。だから、お前の気持ちを教えてくれ」
「…せ、んぱ」
「…オレは、お前が好きなんだ。可愛い後輩、なんかじゃなく、愛しい恋人として、冬弥を愛したい」
「…っ!」
「別に、性行為をする為だけに冬弥を呼んだ訳ではないぞ?冬弥と一緒に食べるための食事も、一緒に楽しむ為の映画も用意した。…だが、駄目だな。目の前にいるとムードもへったくれもなくなってしまう」
眉を下げて笑えば彼は、小さな声で「…ズルいです」と言う。
「…俺も、期待していて。でも見せてはいけないと…思っていたのに」
「冬弥…」
「…そんな、格好良い事言われたら…俺は…」
ぽそぽそと小さな声で告白する彼に、司の理性は瓦解した。
小さな口に深いキスを施す。
「んぅ、ん、ふ…ぁ、は…せ、んぱ…?」
「…すまない、多分…止めてはやれないぞ」
ぽやんとする冬弥に低く囁いた。
頭を撫で、するりと服に手を入れる。
「ぅん!!」
びくっと震え、甘い声を出す冬弥は、はしっとその手を己の口に当てた。
自身も何が起きたか理解していないようで、目元を染めながら必死に声を出さないようにしている。
「…冬弥」
そんな声も出せるのか、と思いながらこのチョコレートのように甘い声を聞けないのは勿体無い、と額を合わせた。
ゼロ距離になった彼に囁く。
「…声を、聞かせてくれ」
「ぅ、ゃ…!」
「…出来るな?冬弥。…オレにお前の全てを見せて欲しい」
「…ぁ…う…せん、ぱい…!」
綺麗な瞳に涙を溜めるから、優しく頭を撫でた。
優しい手に翻弄されてくれているのか、足がシーツを掴んでぐちゃぐちゃになる。
それを司は、単純に嬉しいと…そう思った。


なかなか表情を変えない彼の、珍しいそれは…今は全て司だけのもの。
美しくも儚いその表情は…一晩かけ、司の星のような瞳に刻み込まれていった。

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