ザクカイ誕生日

「…よっ」
こつん、と頭に何かが触れる。
振り仰げば鬼ヶ崎カイコクがいつもの笑みで笑っていた。
「…なんだ?またちょっかいを…」
小さくため息を吐くザクロにカイコクはきょとんとし、それからカラカラと笑う。
随分とまあ楽しそうで、年相応なそれに…忘れがちだが、カイコクは未成年なのだ…ザクロは再び息を吐いた。
一通り笑い終えた彼がふわりと笑う。
いつもみたいに作られたそれではない…ザクロが好きな微笑みで。
「…誕生日、おめっとさん…忍霧」
紡がれるそれに数秒理解が遅れ…ああ、と間抜けな声が漏れた。
「ああって…忘れてたのかい?」
「忘れていたというか…曜日観念がないからな」
くすくすと笑うカイコクに、ザクロは言う。
ゲノムタワーでは曜日どころか日付観念がないのだ。
流石に時間は分かるようになっているが、カレンダーもなければ移り変わる四季もない。
よって今が何月かすら分からないのだ。
それなのにまあ良く今日がザクロの誕生日だと分かったな、とじぃっと見つめれば、言いたいことが分かったのだろう、「内緒でェ」とイタズラっぽく微笑む。
「…それで?」
「ん?」
「プレゼントはないのか?」
「…お前さんは存外強欲だな?」
首を傾げてやればカイコクが呆れたように言った。
何を今更、としれっとしていれば、カイコクは小さく息を吐く。
綺麗な顔がザクロに近づいた。
そうして。
「…」
マスク越しに唇が触れ、一瞬の後離れる。
「…。…鬼ヶ崎」
「俺ァ、渡したぜ」
ブスくれ、ジロリと睨めば彼は何でもないようにひらりと手を振った。
この後ゲームもあるからだろう…彼の行動も分かるのだけれど。
頭にある鬼の面、それを結ぶ飾りのそれがふわりと揺れた。
それを見送り…ふと思う。
カイコクの紐はあんな風に結ばれていただろうか。
あんな、プレゼントを包むように…。
そこまで思い、はたと自分のポケットから何かが出ているのに気が付いた。
慌てて探り、それを取り出す。
彼の綺麗な字で書かれたメモに近い手紙。
『今晩、部屋で待ってる』という…簡素な一文に表情が緩むのを感じた。
マスクで良かった、なんて普段感じないことを思う。
「…鬼ヶ崎!!」
「…うわっ、なんでェ…?!!」
追いかけ、ぐんと手を引いた。
蹈鞴を踏むカイコクを抱き寄せ、マスクを外し口付ける。
「…ぅ、は……。…夜、っつたろう…」
ブスくれる彼は頬を染めていて。
愛おしいと、思った。
あのカイコクがザクロのそれでこんなに素直な感情を見せてくれるだなんて!
「…待てない」
「…悪い子だねェ、お前さんも」
「俺は優等生の部類だが」
「どの口が言ってんでェ」
くすくす笑う彼に再び口付ける。
今度は、彼も驚いたりせず、受け入れた。


彼と過ごす2回目の誕生日。
そうして今日はクリスマス。

欲しいものは逃さないと決めたザクロは…カイコクを今年も無意識に翻弄するのであった。
(今年は翻弄してやろうとカイコクが思っていたなんて、ザクロには知る由もない話!)

name
email
url
comment