共依存類冬

突然だが、神代類は青柳冬弥を監禁している。
いや、監禁というよりは軟禁に近いかもしれない。
何せ、外に出る以外のことは許可しているのだから。
「ただいま、冬弥くん」
「…。…お帰りなさい、神代先輩」
それでもこうやって彼は家で待っていてくれた。
最初こそ「…皆が心配するので、外に出させてくれませんか?」と言っていたが次第にそれも言わなくなったのである。
元々外には興味がなかったのかもしれない、と思った。
外に出たい、と言ったのも仲間たちとただ歌いたかったからだ。
冬弥が夢を持っているのは知っている。
歌を奪われる辛さも知っているし、辛い顔をする冬弥を見るのも嫌だった。
だから、会場や練習場には類が送り迎えをし、冬弥を一人で『外』には出さないようにしたのである。
セカイで練習しているのも教えてくれたからそれは外ではないと許可をした。
自分たち以外のセカイもあるのだなぁと思っただけで他人がいるわけではなかったからだ。
彼が嫌がるのは本意ではないのだし。
…類は冬弥が友人、仲間とする人以外には会わないようにしたのである。
ライブ会場では他人と出会う確率は上がるが…何故だが冬弥は誰にも『類に監禁されている』とは言わなかったのだ。
それどころか冬弥はライブや練習が終わると真っ直ぐに類の元に帰ってきた。
だから、類と付き合っているのだな、と思われても監禁されているとは思われなかったらしい。
お陰で相棒である彰人もあまり不審に思わなかったようだ。
好都合だな、と思う。
「今日は何かあったかい?」
「…いえ、特に何も」
「そう」
微笑む冬弥に、類も笑顔を向けた。
ただいま、と言って、お帰りと言われる。
これ程幸せなことはないな、と思った。


それが…唐突に崩れた。
「…は?」
誰もいない部屋に呆然とする。
セカイに行ったわけではないと分かったのは音楽プレイヤーが作動しておらず、何より彼の靴がなかったからだ。
どさりと荷物が手から滑り落ちる。
何故、彼が今更逃げたのかが類にはわからなかった。
「…冬弥くん?」
呆然とする類から彼の名前が溢れる。
今日に限って帰りが遅くなったことが悔やまれた。
まだ近くにいるかもしれないと部屋を飛び出る。
「冬弥くん!!」
「…せ、んぱい?」
叫ぶ類に届く、小さな声。
その方向に体を向ければ…道路でへたり込む冬弥の姿が…あった。
「?!冬弥くん?!」
「…すみません、俺…先輩がなかなか帰ってこないから心配になって…それで」
「…迎えに、来ようと?」
駆け寄る類にホッとした顔を見せ、冬弥が言う。
言葉をつまらせる彼に聞いてみればこくりと頷いた。
「…先輩がいないと、外がこんなに怖いなんて…今までそんな風に思った事も、なかったのに」
「…そう」
小さく吐露する冬弥に類はほぅっと息を吐き抱き締める。
「…神代、先輩?」
「…遅くなってごめんね、冬弥くん。…帰ろうか」
「…はい」
冬弥の返事にようやっと類も笑顔を作った。
彼がいない、それだけであんなにも心が冷えるなんて…思いもしなかった。
彼がいないと駄目なのは自分の方で。
一人でも大丈夫だった冬弥を依存させたのは…紛れもない類なのだ。
広がる闇に背を向け、類は冬弥に手を伸ばす。
しっかりと掴まれたそれに類は笑みを浮かべた。
それは、陳腐な名を付けるなら…愛が乞われた共依存。
もう戻れない関係に二人は融けていく。
(それを果たしてなんと呼んだら良いのだっけ?)

(それは、君次第だよ、と誰かが嗤った)

name
email
url
comment