ほのぼの彰冬

いつも通り、彰人は冬弥と共にセカイへ向かおうとし、止められる。
「?どうした?」
「いや…前にドーナツ屋さんを教えてくれただろう?そこに行きたいんだ」
首を傾げれば冬弥がそう言った。
言われた場所は全国的にも有名なドーナツチェーン店だ。
コーヒーがおかわり自由だったから薦めたのだが…存外に気に入ったらしい。
「別に良いけど。…コーヒーはMEIKOさんトコのが美味いだろ」
「それはそうなんだが」
不思議に思いながらも聞けば、冬弥の歯切れがいつも以上に悪かった。
セカイで淹れてくれるMEIKOのコーヒーを冬弥が大層気に入っているのを彰人は知っている。
だのに珍しいな、と思っていれば冬弥は何かを言いたげに口を開いた。
「…言いたい事あるなら言えよ。オレはお前の言いたいことは組んでやれるけど本当の思いまでは分かんねぇんだから」 
「…。…そう、だな」
軽く言えば冬弥は小さく微笑む。
そうして。
「…デート、しないか?」
「…。…はぁっ?!」
ちょい、と袖を引かれて言われるそれに一度言葉を飲み込んだ彰人は素っ頓狂な声を上げた。
今、なんと??
「やはり、嫌か?」
「嫌じゃねぇよ。嫌じゃねぇけど、何でまた急に」
しゅんとして聞く冬弥に頭を掻きながら言えば彼はホッとした顔をする。
それから僅かに微笑んで口を開いた。
「小豆沢や白石が、共に軽く出かけるのを『デート』と言っていてな。…少し、羨ましくなった」
「…あー…」
「暁山も司先輩の妹さんも、普通のことだと言っていたからな。俺が言ってもおかしくないかと…彰人?」
言葉を紡いでいた冬弥がきょとんとする。
幼く見える表情に、そういうトコ!と思った。
「そもそもオレらは恋人同士だろ…。わざわざ言わなくてもよ」
「…そうなんだが」
呆れながらも指摘すれば、冬弥は小さく声を出す。
少し特別感が欲しかった、と珍しく言い訳するから、思わず天を仰いだ。
まったく、どこからそんなことを覚えてきたのだか。
「わーったよ。行こうぜ、デート」
「…!ああ」
仕方がない、と手を差し出せば嬉しそうに小さく微笑む。
繋がれたそれは温かく…確かにこれは特別感、だな、と思った。


いつもの街、いつもの道も、言葉一つで特別なものに変わる。
幸せだな、なんてガラにもない事を思った。


「つか、なんでミ○ド?」
「コーヒーが美味しいのもあるが…。…今、くまさんのドーナツが売っているんだ。だから、世話になっているMEIKOさんたちにお土産を…。…彰人?」
「…だから、そういうとこだっつってんだよなぁ…っ!」

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