独占欲彰冬

あの子の全ては誰のもの?


「…冬弥ぁ」
呼びかけると図書室のカウンターで本を読んでいた冬弥が顔を上げた。
「彰人。…部活の助っ人は良いのか?」
「さっき終わらせてきた。…帰ろうぜ」
「…ああ」 
パタン、と本を閉じ、冬弥が立ち上がる。
片付けてくる、と本棚の奥に消えた。
それを見送り、小さく息を吐く。
サッカー部の助っ人中、目に入ったこの場所で。
冬弥が誰かと喋っていた。
彼だって委員会中だったのだ、誰かと話すことだってあるだろう。
それでも、今日は何故か何となく嫌だった。
イヤホンを耳に突っ込み、音楽を流す。
聴こえてきたのは初音ミクの歌声だった。
姉である絵名が「アンタも好きじゃないかと思って」と押し付けてきたCDアルバムに入っていたそれ。
『♪あの子のすべては僕のもの 誰も触れないように』
歌い上げられるそれは彰人の想いに呼応する。
冬弥の、柔らかい笑顔も歌声も存外に強い意思も自分のものだと言えたらどんなに良いだろう。
「…アホらし」
溜め息を吐き出し冬弥が帰ってくるのを待った。
「すまない、待たせた。…何を聴いているんだ?」 
少ししてから戻ってきた冬弥が首を傾げる。
綺麗な髪がさらりと揺れた。
ん、とイヤホンを差し出せばそれを躊躇無く受け取る。
「絵名のやつが珍しく薦めてきたからよ」
「…なるほど。良い曲だな」
言い訳がましく言えば冬弥がふわりと笑みを浮かべた。
「まあ、確かに曲調はな…」
「?彰人は歌詞は良いと思わないのか?」
不思議そうな彼に、少し目を見開く。
まさかそんな事を言うとは。
「明らかに重いだろ、こんな奴。好きな奴の為に法を犯せるんだぞ」
「…?それだけ相手への想いが強いんだう?」
きょとりとした顔をする冬弥に、どんな表情を向ければ良いのか分からなかった。
何故、彼はこんなことを?
「…冬弥、オレがお前に対してそう思ってたらどうすんだ」
「…俺の為に、法を?」
止せば良いのに聞いてしまった問いに、冬弥は小さく上を向く。
そうして。
「…。…彰人なら、本当にやりそうだな」
ふわり、と笑みを見せた。
「…嫌じゃ、ねぇの?」
「法を犯したことで彰人と離れると言うなら別だが、俺は…嬉しいと思う」
綺麗なそれを浮かべる冬弥に、彰人はぐちゃぐちゃになりそうで。
…いつだって、想いを掻き乱される。


(大概にしといてや、とは誰の声?)


「彰人にとって毒占欲を振り翳す程の価値があるのは、純粋に…嬉しい、からな」


綺麗な彼も、存外に汚い彼も、等しく自分のモノにしたい。

その想いは膨らんで蜜となり、二人を飲み込んだ。

あの子の全ては誰のもの誰のもの?

アイツの全てはオレのもの!
(そこから先、毒占欲の行方は二人だけが知っている)
                   

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