酔っ払ったザクロに絡まれるカイコク

頭がふわふわする。
何故こんなことに、なんて疑問は彼方に消えていた。
「…大丈夫かい?忍霧」
「…鬼ヶ崎」
少し心配そうにカイコクが覗き込んでくる。
その顔は純粋に心配しているというより、自分に被害が及ばないかを窺っているようにも見えた。
「いやー!お屠蘇で酔うとは思わなかったよね!」
「甘酒で酔うなら酔うに決まってるだろう!」
あははー!と笑うのはユズで、カイコクがそれに怒鳴り返す。
どうすんでェ、と戸惑ったように彼がこちらを窺っていた。
それがなんだか癪に障る。
大体彼はいつもそうなのだ。
いつもこうやってザクロを勝手に窺って振り回していなくなる。
…ザクロの気も知らないで。
「…座れ、鬼ヶ崎」
「…いや、座ってっけど」
「正座だ正座!」
「はぁ?…何なんでェ、ったく…」
ブツブツ言いながらも従ってくれるらしい彼が姿勢を正す。
その上にごろんと頭を乗せた。
所謂、膝枕、というやつである。
「…えーと、忍霧サン?」
「名前で呼べ!」
「…お前さん、なんでそう…」
はぁあ、と溜息を吐くカイコクが頭を撫でてきた。
「…忍霧」
「…名前は」
「忍霧ザクロ」
「フルネームではなく!」
「…あのなぁ」
注文をつけるザクロに、素直だったカイコクが声を荒らげる。
「…お前さんだって俺のこと名前で呼ばねぇじゃねぇか」
「…。…カイコク」
「はっ、酔っ払ってるお前さんに言われても嬉しくなんざ…」
「…好きだ、カイコク」
ぼうっとした頭でも彼の美しい顔はクリアに映り、ザクロは言葉を紡いだ。
「…忍霧?」
「俺は、貴様が好きだ。愛している。結婚しよう」
「いや、だから」
「カイコク、俺と家族になってくれないか?」
「…。…膝枕の酔っ払い男にプロポーズされてもな」
くすくすと彼が笑う。
その笑みは逆光に照らされ、とても美しく見えた。
いつもの不敵な笑みではなく、穏やかで包み込んでくれるようなそれで、カイコクは笑む。
それをずっと見ていたいと…ザクロはふわふわした頭で…そう、思った。
「お前さんがきちんと覚えてたら答えてやるよ…ザクロくん?」


カチ、とボイスレコーダーの音を止める。
いつの間に、と目を逸らすカイコクをザクロは逃しはしなかった。
「と、言う事だが?何か反論は?」
「おっ、前さん自身は覚えてねぇくせに!!」
壁に追い詰め見上げればカイコクは最後の抵抗に、と声を荒らげる。
「覚えていなければボイスレコーダーなど持ち出しはしない」
「…う……」
「返事を、貰えるだろうか。…なぁ、カイコク?」
真剣に聞くザクロに、カイコクの綺麗な目が泳いだ。
酔った勢いではない。
酔っぱらいの戯れ言なんて思ってほしくはなかった。
だから、あの日のプロポーズを、もう一度。
「好きだ。愛している。…俺と家族になってくれないだろうか」


もうすぐ、春が来る。

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