ワンドロ・こたつ/ケモ耳

セカイにはバグがあるらしい。
何度か巻き込まれているのですっかり慣れてしまったが…それもどうかとは思うけれども…普通じゃない、とは思う。
だが。
「彰人!大変だよ!」
「何だよ、急…に?!」
パタパタといぬのしっぽを振った…ちなみに比喩ではなく現実である…バーチャルシンガー、鏡音レンが抱きついてきた。
犬が苦手な彰人ではあるが、これはレンだと言い聞かせながら引き剥がす。
そも、バグのお陰で彰人にも同じような耳がついているのだ。
それでも嫌なものはやはり嫌なのだけれども。
引き剥がされたレンはいつものような元気いっぱいな少年然としたそれではない、真面目な顔で彰人に告げた。
「冬弥とKAITOが悪魔に取り憑かれた!」


14歳、中二病真っ盛りか、と突っ込んだ彰人は怒れるレンに引っ張られ、とある場所まで来ていた。
セカイでは今まで見たことのない場所で、彰人は首を傾げる。
「なんだよ、ここ」
「良いから!」
「…って、だから引っ張んなっつー…!」
声を上げ、レンを静止しようとしたが彼は止まらなかった。
ほら!と連れて来られたのは随分と和風の部屋で。
と、いうか。
「あ、レン。それに彰人くんも。いらっしゃい」
ほわ、と猫耳が着いたバーチャルシンガーのKAITOが笑んだ。
相変わらず綺麗に笑う人だなぁなんて思いながら彰人は首を振る。
「どーなってんだよ…!」
「いやぁ、寒いから最近実装されたんだよね。MEIKOのカフェには合わないからここになったんだけど」
「せめてバグ直してからにしろや!」
ふわりと笑むKAITOに彰人は渾身のツッコミを入れた。
「彰人ー!なんとかしてよ。こたつが実装されてからKAITOも冬弥も動かなくて!」
「それ、オレに言われてもどうにもなんねー…。…冬弥?」
レンの訴えにそう言いながら言われた名前に首を傾げる。
…と。
「…。…あき、と?」 
いつもより熱を帯びた声がした。
そちらを見れば髪と同色の耳をピコピコさせた冬弥がこたつの中からこちらを見ていて。
「…何やってんだよ、冬弥」
「…すまない。寒くて…」
「こたつから出られないんだよ、ね」
呆れたように声を掛ければ冬弥は申し訳無さそうな顔をした。
KAITOのそれに、冬弥がこくんと頷く。
なるほど、悪魔に取り憑かれたとはこの事だったようだ。
ほわほわと幸せそうな冬弥に複雑な感情が芽生える。
蕩けた彼が色っぽいだとか、幸せそうな顔に良かったなと思ったりだとか、彰人よりもこたつを選んだのかという苛立ちだとか。
それらを引っくるめて思わず手を伸ばす。
くしゃりと髪を撫でれば冬弥は幸せそうな顔をした。

なるほど、猫にこたつは真理、らしい。


(幸せそうな顔はそれだけでもないけれど!)

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