ルカ誕生日

「…あのぅ、カイト兄様」
リビングでくつろいでいる所におずおずとやってきたのは、ルカ姉ぇだった。
…珍しいな、ルカ姉ぇが。
兄さんもそう思ったのか読んでた本をぱたんと閉じて、どうしたの?と問う。
「…少し、あの…相談事がありまして…」
言いにくそうにルカ姉ぇが言いながらチラチラとこっちを見てくる。
…あー、なるほど、な?
「おれがいたら話しにくい?ルカ姉ぇ」
「えっと、あの、その」
「ふふ。じゃあ俺の部屋に来る?」
おれの質問にわたわたする素直なルカ姉ぇに兄さんが笑いながら誘った。
ホッとしたようにルカ姉ぇが笑みを見せる。
「お願いします、カイト兄様」
「はぁい。じゃあちょっと行ってくるね、レン」
「はいよ」
立ち上がる兄さんとひょこと頭を下げるルカ姉ぇにおれはひらひらと手を振った。
成人の、男性ボーカロイドと女性ボーカロイドの組み合わせなのに何も起こらないっていう絶対的な自信は何なんだろうな?
おれと兄さんなら絶対ナニか起きるけど…。
「レンくん見てみて、☆4のルカちゃんが出た!!!」
…あ、もう一人確実的なのがいたわ。
バタバタ走って来てスマホを掲げるのはミク姉ぇだ。
一応電子の歌姫のはずなんだけど、うちの初音ミクはルカ姉ぇを盲信的に愛してんだよなぁ。
「いやぁ、可愛いよねぇ、アイドルのルカちゃん!」
ニコニコしながら部屋に入ってきたミク姉ぇはドアを閉めてから…真顔になる。
「…行った?」
「…行った」
短いやり取りの後、ふはっと息を吐き出して持ってた紙袋を置いた。
中には花飾りが大量に入っている。
「うわっ、めっちゃ作ったね?」
「ルカちゃんの為ですから!」
えっへん!と胸を張るミク姉ぇ…流石です。
実は誕生日なルカ姉ぇのためにサプライズパーティを企画したんだけどさ、全員部屋にいるからなかなか準備ができなくて。
それで、敢えてほんのちょっと不安を煽ってルカ姉ぇを離そうってなった訳。
最初は不安そうにしてるところを男子である兄さんかおれのどっちかが声をかけるって計画だったんだけど、ルカ姉ぇから声をかけてくるなんてな。
「つか、あんまルカ姉ぇ煽るなよ?めっちゃ不安そうだったんだけど」
「えっ、何それ見たかった」
部屋の壁に花を飾り付けながらそう言えばミク姉ぇが真顔で言う。
ミク姉ぇ…。
「レンくんだって、不安そうなお兄ちゃん見たいでしょぉ?!」
「そりゃあまあ否定はしないけど」
じっとり見つめるおれに、ミク姉ぇがむくれる。
思わずそう返せば、ほらぁ!と声を上げた。それは仕方ないと思いますぅー!
「何やってるの?そろそろケーキ出来るわよ」
「って言ってもフルーツ切って飾り付けしただけだけどね!」
呆れたようにメイ姉ぇが顔を出す。
その後ろからひょっこりとリンが楽しそうに言った。
見に行った先にはロールケーキの上にチョコでできたバラが乗ってて。
「…カイ兄ぃはどこに行くんだろうねぇ」
「それ、去年も言った」
しみじみと言うリンにおれは突っ込む。
「もう職人だよねぇ、お兄ちゃん」
「私も姉としてその辺は心配してるんだけど…。ほら、みんなが喜ぶならパティシエになろうかな?とか言いそうじゃない?」
感心するミク姉ぇにメイ姉ぇが言った。
確かに言いそうで怖いな…。
「そういやさぁ、あの作戦だけど、本当のとこは如何なわけ?」
話を変えるおれに三人ともキョトンとする。
あの作戦…プロジェクトセカイのバーチャルシンガー巡音ルカに夢中になる作戦のことだ。
巡音ルカに対抗するには巡音ルカしかいないもんな。
「どうもこうも。あたしの歌姫はルカちゃんだけだよ?」
「確かに、イラストは可愛いけどそれだけだもんねぇ」
「我が家に舞い降りた癒やしの天使…そんな特別な存在はうちのルカだけよね」
「兄さんもいますが」
「カイトは小悪魔でしょ、どっちかというと」
おれのツッコミにメイ姉ぇがぴしゃりと言った。
ごもっとも。
「美人だし可愛いし、一緒にいて自然に笑顔になっちゃう!リン、ルカたんがいるから毎日頑張れるんだよっ?」
「あたしだって!ルカちゃんがいてくれなかったら歌姫なんて辞めてたなぁ。歌ってて楽しいし!」
「マスター泣くわよ?…でもそうねぇ。私もルカがいるから歌も日々も楽しいのは、あるわね。愛おしいって感情はルカが教えてくれた気がするわ」
「そうそう!!愛の歌は全部ルカたんに気持ちを向けちゃうよね!」
「あたし、こないだウェディングソング歌っててね、そのまま告白しに行きそうになっちゃった。それくらいルカちゃんが好き!」
「あら、私も負けてないわよ?」
「リンだって!」
「…だって、良かったね」
くすくすと笑う声がする。
振り向くおれたちの前にいたのは、楽しそうに笑う兄さんと。
「ルカ?!」
「ルカたん?!」
「ルカちゃん!」
三人の声がハモる。
顔を真っ赤にしたルカ姉ぇが兄さんの後ろから覗いていた。
「…あの、皆様…ありがとうございま…きゃっ?!」
「ルカちゃん可愛い!大好き!!」
「ミク姉ぇずるーい!リンもルカたん大好きだからね!」
「あら、私を忘れてもらっちゃあ困るわ?ルカ、大好きよ?」
「ミク姉様、リン姉様、メイコ姉様…」
三人に抱きつかれ、ほわほわとルカ姉ぇが笑う。

ま、サプライズは成功ってやつかな。

今日は、幸せなルカ姉ぇの誕生日!!!
(ちなみに幸せなのはルカ姉ぇだけじゃないんだぜ?)


「…兄さん、改めて小悪魔だよなぁ」
「えー…パティシエになってもレンにはケーキ焼かないからね?」
「なあ待ってそういうトコだかんな?!!」

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