ワンドロ・体調不良/同棲

「彰人!彰人来てくれ!」
いつものでかい声を更に大きくした、先輩である司が教室に飛び込んできた。
この人は迷惑とか言うのを考えないのか、なんて思いながら彰人は露骨に嫌そうな顔を作る。
「…なんスか、いきなり…」
そんな彰人の肩を掴み、司は真剣な声で…驚愕のそれをこちらに、告げた。

「冬弥が!倒れたんだ!!」


「…冬弥!!」
「…彰人?」
保健室の扉を勢い良く開ければきょとりとこちらを見る冬弥がいた。
ベッドに横になってはいるものの存外に元気そうな姿にホッとする。
「…倒れたって、聞いたから…。…良かった、無事で」
「…。…大袈裟だ」
「ちょっとした立ち眩みだよねぇ?」
困った顔の冬弥に、くすくすと目の前にいた…正直、いたのか、と思った…類が笑った。
「…立ち眩み?!」
「たっ、倒れたのは本当だぞ?!顔がいつもより白いなと思って声をかけたらだなぁ…!」
素っ頓狂な声を出す彰人に、司が焦ったように言う。
見かけた冬弥の顔が普段以上に白いのを気になった司が冬弥に話しかけた途端、倒れ込んできた、というのが事の真相なようで。
一緒にいた類が保健室まで運び、その間に司が彰人を呼びに来た、らしい。
現に、彰人たちが飛び込んでくる少し前に目を覚ましたんだよ、と類が言っていた。
「…冬弥」
先輩二人が帰って行った後、じろりと睨みつけると彼は少し罰の悪そうな顔をする。
「…。…朝から体調が少し悪かったんだ」
「少しってツラか?」
「…」
「冬弥」
口籠る冬弥の名を呼べば少し視線を彷徨わせた後、小さく息を吐いた。
「…頭痛がするくらいだったから迷ったんだが、父親がいて。慌てて飛び出したせいで朝食を食べ損ねてしまって…」
「…お前なぁ」
冬弥のそれにため息を吐き、抱きしめる。
「…彰人?」
「無理するなっつってんだろ」
「…。…すまない」
申し訳なさそうに謝るから、謝るな、と言って少し離れ、彼の額に己の額をつけた。
「…父親のせいで無理するなら、オレと暮らそうぜ」
「…っ」
「そしたら、朝から無理する必要もないだろ?」
ニッと笑う彰人に、冬弥がふやりと笑む。
そのキレイな目に涙が浮かんでいるように、見えた。


「…ふふ」
「どした?」
その数年後。
約束通り冬弥と同棲し始めた彰人は彼が小さく笑っているのを見、首を傾げた。
「…いや。…あまり体調が悪くなることがなくなったな、と思ってな」
「…なんだ、そりゃ」
機嫌が良い冬弥に苦笑する。
それはそうだろう。
だって、体調不良になる暇がないくらい、幸せなのだから。


(これは二人だけの健康法、なのかもしれないね?)

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