ワンドロ/成人、着物

「あ、弟くんじゃん!」
やっほー!と手を振ったのは瑞希、それに振り向いてこちらもひらりと手を挙げたのは杏であった。
「…弟くん言うな。…で?何してんだよ」
対して嫌そうな顔をしたのは彰人である。
疑問符を浮かべながら覗きこめば何やら雑誌を読んでいたようで、ごてごてした記事が目に飛び込んできた。
中には色とりどりの着物が並んでいて。
「『今からでも遅くない!大人可愛い成人式コーデ』ぇ…?」
「そ!もうすぐ成人式でしょ?だから、どんな衣装が良いか見てたんだよ、ね!」
「そうそう!見るだけはタダだもんねー!」
見出しを読み上げながら更に疑問符を増やした彰人に、瑞希と杏が楽しそうに言う。
「…まだオレら高1だろ」
「いーのいーの!…ほら、これとか可愛くない?!」
「あっ、いいじゃん!瑞希とかこれ似合いそう!」
「アホくさ…」
楽しそうな二人に彰人は呆れながらも立ち去ろうとした。
が。
「えー!じゃあさ、冬弥くんはどれ似合うと思う?」
「…は?」
「冬弥かー…ちょっと待って」
瑞希のそれを聞き咎め、振り向いた彰人を無視し、杏が何やら考え始める。
「大学生の冬弥って色気凄そうだからなぁ…やっぱりこれかな」
「あー、ボクも迷ったなぁ。でもこっちもなかなか…」
「待て待て待て!!!」
きゃっきゃと話す二人に盛大に突っ込んだ。
何よ、と杏が珍しく膨れ面を晒す。
「アホくさって言った癖に」
「あのなぁ。冬弥で妄想すんな」
「独占欲丸出しの男は嫌われるよ?弟くん」
「るっせ」
くすくすと笑う瑞希に、べ、と舌を出してやった。
自分たちはともかく、冬弥に妄想でも女物を着せないでほしい。
「つか、冬弥は男!これは女のだろ!」
「えー、可愛いに男も女もないよぅ!着物なんて男も女もないに等しいしさぁ」
「お前はそうでも構わねぇけど妄想に冬弥を使うなっつー…!」
ぎゃーぎゃーと言い合う二人に杏が口を開いた。
「でもさぁ、冬弥の4年後が色気凄そうなのは彰人だって思うでしょ?」
「…そりゃあ、まあ」
首を傾げる杏に歯切れ悪く返す。
今でさえ色気が凄いのだ、成人したらどうなるか、なんて想像に難くなかった。
「…随分と楽しそうだな」
不思議そうな声が聞こえて振り向けば委員会が終わったらしい冬弥がこちらを見つめていて。
「あ、冬弥じゃん!」
「ねぇねぇ、冬弥くん!成人式のさぁ…」
「帰るぞ、冬弥!!」
瑞希が呼び寄せる前に冬弥に駆け寄り手を引いた。
「??…すまない、また!」
混乱しきった顔の冬弥が二人に向かって手を挙げる。
どうしたんだ、という彼には言えなかった。
「…彰人?どうしたんだ」
「…いや、何も」
こてりと首を傾げる彼に、言えるはずもない。
…成人した冬弥を想像して良からぬことを思った、なんて!
「…今は今のお前が一番だよな」
「…??」
小さく独りごちる彰人に冬弥はきょとりとした顔をする。
それには答えず、彰人はニッと笑いかけたのだった。


成人しても、きっと隣を歩く関係は変わらない

けれど


(冬弥の色気が成人して変わってるかもしんねーだろ??)


「…なぁ、冬弥。お前成人式何着る?」
「…本当にどうしたんだ?彰人」

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