君と奏でる小戯曲(オペレッタ)類冬

いつからだろう。
君と逢うのが楽しみになったのは。

授業終わりのチャイムが鳴る。
今日はショーの練習に行く前に寄る場所があった。
「…や、冬弥くん」
図書室の扉を開けると僕を認めた彼がふわりと笑みを向ける。
「神代先輩。…言われていた本、ありましたよ」
「本当かい?助かるよ」
嬉しそうに言う彼に僕も笑みを浮かべた。
見てみて、と言わんばかりのそれには笑顔になるしかない、よねえ?
まるで小さな子どもみたいで、つい頭を撫でてしまった。
「…あの、先輩?」
「ふふ。つい」
困惑した表情の彼から本を受け取り、表紙を見る。
世界のオペレッタ、と書かれたそれは少し前に彼に伝えたものと合致していた。
「うん、流石は図書委員だね。間違いなくこの本だ」
「…良かったです」
ふわ、と笑みを浮かべる彼の手を取る。
細くて、綺麗な手。
まるでお人形さんのような、そんな。
「…?あの…」
「ねぇ、冬弥くん。僕とオペレッタを歌ってみないかい?」
手指に口付け誘ってみれば彼はきょとんとした顔をしてみせる。
「オペレッタ…。…俺は喜歌劇は専門外ですよ?」
「ふふ。喜歌劇だけがオペレッタの全てじゃないさ」
困った顔の冬弥くんにそう言って彼を引き寄せた。
少し驚いた顔の彼に笑いかける。
「傲慢な錬金術師と図書室のお人形さん、なんてアンハッピーでしかないだろう?」
「…。…存外、本人たちはハッピーかもしれません」
「確かに、そうかもね」
そう言って、二人で小さく笑い合った。
物語はハッピーエンドとは限らない。
それはオペレッタも同じこと。
そりゃあ大衆はハッピーエンドを望むだろう。
僕だって見るならば悲劇よりも幸福終幕の方がずっと良い。
不穏な終わりはもやもやするだけだしね。
でも、ねぇ…ほら。
幸せの定義は誰が決めるんだい?
観客かな。
それとも周りの人間かな。
もちろん違う。
「俺にオペレッタを教えていただけますか?」
「勿論だとも」
柔らかく笑む冬弥くんに僕も笑う。
…周りからは如何見えたとしても。
僕らが幸せならそれで良いじゃないか!!

図書室で奏でる秘密のオペレッタ

さて、物語の始まりの言葉は何にしようか

定石をいくなら、皆が知っているあの言葉


(昔々、ある所に……)

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