カイコク誕生日

カイコクがブスくれている。
かれこれ3時間はこの仏頂面で、ザクロはそっと溜め息を吐いた。
ちなみに、今回に限ってだが、彼に対してザクロが何かした訳ではない。
寧ろ今からしたかったのだが…それは置いておいて。
さて、何故こんな仏頂面なのかといえば、今日は彼の誕生日なのだ。
…節分ではない、ただただそれだけの。
わくわくしながら「今日は節分だねェ」と仲間に振るカイコクに、「節分は昨日だった」と告げたのは誰だっただろう。
表情が削げ落とされ、そのまま部屋に帰っていってしまったから、慌てて追ってきたのだった。
「…鬼ヶ崎」
「…。…124年」
名前を呼ぶザクロに、小さく返される、それ。
そういえば2月3日ではない節分は124年ぶりなのだっけ、と思った。
「ああ、らしいな」
「…今日でなくても良かったのに」
「どちらにせよ、巡ってくるだろう。…来年は行えば良い」
「…」
また黙りこくってしまうカイコクにザクロは困った顔を向ける。
「…。…なあ、鬼ヶ崎。俺はお前の誕生日を祝いたいのだが」
「…」
「…そんなに、節分と同じ日でないと駄目なのか?」
そっと問い掛ければ彼は少しだけ目を伏せた。
「…ちょいと、自慢だったんでぇ」
「?節分と誕生日が同じ日、だということが、か?」
「あァ。…忍霧も、クリスマスと同じ日だろう?…揃いだと、思って」
首を傾げるザクロに、ごにょごにょと言い訳するからぽかんとしてしまう。
つまり、拗ねていたのは節分を祝えなかったからでも、節分と同じ日でなかったということだからでもなく。
「俺の誕生日と同じ、行事被りではなくなるから、か…?」 
思わず聞けば、ややあってからこくりと頷いた。
存外可愛いところがある年上の恋人に肩を揺らす。
「…笑うなぃ……!」
「…すまん、つい」
真っ赤な顔でブスくれるからそう言ってマスクを外した。
「自分の誕生日より節分を優先したいからだと思っていた」
「確かに節分の方が大事だけどねェ…。そんな子どもじみた理由で拗ねたりなんざ、しねぇさ」
肩を竦める彼に、その理由はよっぽど子どもっぽいのではないか、と突っ込みかけてやめる。
眠れるにゃんこを無理に起こす必要はどこにもなかった。
「貴様、クリスマスはそんなに好きでもないくせに」
「親戚連中が集まるのが、な。忍霧の誕生日は特別だと思ってるんだがねェ?」
「それは貴様と同意だ」
くすりと笑うカイコクにザクロも笑みを浮かべる。
引き寄せ、そっと囁いた。
「…俺は、揃いでなくてもこの日は特別に違いないし、何より鬼ヶ崎を愛していることには変わりがないのだが」
「…。…お前さん、年々照れが無くなってきたねぇ?」
「何とでも」
複雑な表情の彼に、ちゅ、と触れるだけのキスをする。
「…誕生日おめでとう、鬼ヶ崎」
「…ん」
ようやっと柔らかく微笑んだカイコクに、やはりこの顔が一番好きだな、と抱き寄せた。
二度目のキスは深く、甘く。
カイコクが居て幸せだと、改めて実感したのだった。


今日は彼の誕生日。


節分じゃなくたって、その日は素晴らしき記念日、なのだから!!

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