初詣彰冬

少し早く着き過ぎたか、と彰人は空を見上げる。
東雲色のそれは新しい年を輝かせていて、思わずグッと背伸びをした。
「…彰人」
「…おぅ、来たか」
駆けてきた冬弥に手を挙げる。
「すまない、遅れてしまって」
「オレも、こんな早朝に呼び出して悪かったな。…つーか、それより言う事、あんだろ」
マフラーを巻いていても寒そうな彼に笑いかけた。
きょとりとした冬弥は暫く考え、ああ、と笑みを浮かべる。
「…明けましておめでとう…彰人」
綺麗なそれは昇ってきた朝日よりも眩しく、彰人は、おぅ、と満足そうに頷いたのだった。


それより少し前。
すっかり年が明け、テレビも一旦落ち着いた時間帯。
何故だが早くに目が覚めた彰人はスマホをぼんやりと見つめていた。
二度寝をしても良いのだが…目が覚めた後、姉である絵名が正月早々不機嫌であることは長年の経験からわかりきっている。
そもそも、家族と正月を過ごす、という歳でもないし、何より完全に眠気はとんでしまっていた。
ヒヤリとした、冬特有の冷気が漂う部屋で身を起こす。
スマホをタップし、短い文章を作った。
「…ガラじゃねぇなぁ…」
独りごちてスマホを置く。
着替えるか、とそっと音を立てないようにベッドから抜け出したのだった。


「…珍しいな、彰人が誘ってくるのは」
「…オレが一番思ってる」
小さく笑みを浮かべる冬弥から、メッセージの返信があったのは着替えている最中で。
起きたのか起こしたのか、と心配していれば『起きていた』と短い返信が来た。
どうやら眠れなかったらしい冬弥は彰人の誘いに二つ返事で乗ってくれたのである。
「…お前ん家、厳しいだろ。良くこんな朝早くに出られたな?」
「…。…朝早くだから出られたんだ」
彰人のそれに短く答える冬弥に、へぇ、と返した。
あまり触れてほしくはないのだろう、彰人もそれきりで話題を終える。
「そういや、屋台出てるらしいぜ。金とか持ってきたか?」
「…。…一応は」
「っし。んじゃあ参拝終わったら朝飯代わりになんか食おうぜ」
「…あぁ」
笑いかけると冬弥も笑みを見せた。
最初の頃に比べれば彼は柔らかいそれを浮かべるようになっていて。
これからも、冬弥の色んな表情を隣で見ていたいと彰人は思う。
神はあまり信じないタイプなのだけれど。
「…。…なぁ、彰人」
「あ?」
「…俺はまだ彰人に挨拶をされていないのだが」 
ちょい、と服を引っ張る冬弥に彰人は笑った。
意外とそういう所は気にするタイプなのだ…彼は。
「…明けましておめでとう、冬弥」
囁いてやれば優しく微笑む。
少し遠くで鈴緒が揺れていた。

初詣なんかはガラではないけれど、たまにはこういうのも悪くない。
(だって、カミサマに願わなくたって自力で掴みとれるのだから!!)

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