姫始めザクカイ

「…鬼ヶ崎」
「…しつこい」
カイコクを押し倒し、はて何分経ったろうか。
彼は先程からブスくれた表情でザクロを見上げていて。
「…そんなに嫌か?」
「今日は気分じゃねぇ」
きっぱり言われるそれに、ザクロはムッとする。
「いつもは言わないだろう、そんな事」
「言っても聞かねぇだろう?」
ツン、とそっぽを向くカイコクに、ザクロは静かに彼の名を呼んだ。
「…鬼ヶ崎」
「…。…去年やったろう?」
「いや、去年は去年。今年は今年だろう。貴様、節分は毎年行わないつもりか?」
僅かに逸らされた目をこちらに戻して言う彼にザクロは思わず呆れる。
違うけどよ、となかなかに歯切れが悪い彼をじぃっと見つめた。
それでもカイコクは折れてはくれないようで。
「なぁ、俺が嫌いなのか?」
「嫌いじゃない。する気分じゃねぇってだけだ」
「…俺は、鬼ヶ崎を抱きたいんだが」
少し顔を赤らめながらもしっかり伝えれば彼は呆れたようにこちらを見た。
「…。…お前さんも強情だねェ」
「貴様が言うのか、それを」
こんなに拒んでおきながら何を、と言えばカイコクは小さく言葉を吐く。
…そうして。
「…。…去年の姫始めは媚薬まで使ったくせに」
ぼそりと本当に小さく告げられたそれにザクロはぽかんとした。
何を言っているのだろう、この男は。
「…は…。…あれは鬼ヶ崎が煽るからだろう?!」
思わず声を荒げてしまった。
丁度一年前、ユズが「作った」という媚薬を(それもどうかと思うが)煽ってザクロに飲ませたのはカイコクの方なのだ。
ユズが作ったそれは確かに本物で、躰が熱くなったザクロを、縛って翻弄したのもカイコクだった。
…まあ、その後拘束を取り、彼の躰を散々貪り好き勝手したのはザクロの方なのだけれど。
「…っ、あんなにするこたぁねぇだろう!あの後暫く躰辛かったし!」
「…いや、それは自業自得…。…悪かった」
それをまだ根に持っているというカイコクが怒鳴るから、呆れながらも確かに酷くした自覚もあるので素直に謝る。
「…忍霧じゃねぇみたいだったし」
小さく紡がれる言葉に少し嬉しくなった。
だって、それは。
「なら、今年は『俺が』溺れさせてやるから」
ぎゅ、と彼の手を握る。
駄目だろうか、と縋って見せれば彼は悔しそうに言葉を無くし、ああくそっ!と吐き捨てた。
「一回だけ、な!」
「ああ」
頷いて口付ける。
可愛らしい彼に一回だけ、なんて健全たる男子高校生が護ることが出来ようもなく。
カイコクの甘ったるい声は一晩中響き、次の日起きた不機嫌な彼の為に翻弄する羽目になったのであった。

(これもまた姫始めの一連の流れ、だったりするけれど、ね!)

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