初夢ラセタバ

ラッセルは部屋の中ぼんやりと目を開けた。
これは夢なんだと言い聞かせる。
けれど、ねぇ、これは。
起き上がってひたりと窓に触れた。
(どちらが夢の世界?)


「ラッセル」
外に出た途端、嬉しそうな声が自分の名を呼んだ。
振り向くとニコニコと手を振る青年がいる。
名をタバサ・マクニール、享年23歳。
ラッセルが『殴り殺した』、HAPPYDREAMの住人だ。
「…タバサ」
「なあなあ、ラッセル。ラッセルは夢とかって見る方か?」
「…え?」
世間話程度のそれなのだろう、無邪気な話題にラッセルは思わず固まった。
何と答えれば良いのだろう。
これが夢だ、とでも?
悩んでいれば、タバサは「いきなり言われても困るよな!」と笑った。
「閑照先生がさ、東の国では年が変わった次の日に見る夢を初夢って呼ぶって教えてくれて。縁起が良い夢とかあったりするらしいんだ」
「…そう、なんだ」
「不思議だよなぁ。見た夢一つで良かったり悪かったりするんだから」
ふふ、とタバサは機嫌が良さそうに言う。
そもそも彼が怒ったところなんて見たことないのだけれど。
(だって彼は殺されて尚疑問しかぶつけて来なかったのだから!)
「…ラッセル?」
「え、あ」
顔を上げればタバサが心配そうな目をしていた。
何でもないよ、と首を振り、ラッセルは口を開く。
「…夢、見るよ」
「へぇ!どんな?」
「…皆と笑って暮らす夢」
淡々とした答えにきょとんとしたタバサが笑った。
「なんだ、今と変わらないなぁ」
「…そうだね」
「もうちょっと、空を飛んだりする夢かと思ったのに」
楽しそうに笑うタバサに、それが良いのだけど、とラッセルは目を伏せる。
だって本当のタバサはこんな風にもう笑ったりはしないのだから。
「…あ、後タバサと兄弟になった夢、とか」
「…俺と、か?」
うっかり言ってしまったそれは気付いた時にはタバサに聞かれていて、しまった、と思う。
不思議そうな彼に、如何しよう、と見上げた。
そんな、願望。
言った所で何もならないのに。
「…俺も、ラッセルが弟なら毎日楽しいだろうな」
可愛らしく、タバサが笑う。
夢なのに。
いや、違う。
夢だから。
これは自分が作った夢のタバサだ。
現実の彼がどう言うか、なんてラッセルは知らない。
だって、そんな話をする前にタバサは死んだのだから!!
「タバサと一緒なら、良い夢が魅れる…気がする」
「なんだそりゃ」
ふは、とタバサが笑う。
髪飾りがふわふわと揺れた。
「なら、初夢リベンジと行くか?」
タバサが手を差し出す。
共に眠ることができたら幸せだろうな、とラッセルは僅かに笑みを浮かべて…その手を取った。


ラッセルは夢を見る。
優しい人と共に眠る…夢を魅る。
それは、有り触れた、有り得ない夢の話。

「…ねぇ、初夢って新しい年に見る最初の夢って…」
「街に変化が起きてるならそれはもう新しい年なんだよ!!」
(タバサが笑う。

無茶苦茶で、ただただ幸せなユメだな、とラッセルは目を綴じた)

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