お前と奏でる夜明曲(オーバート)彰冬

「冬弥ぁ、悪ぃ。遅くなっ…」
部活の助っ人に駆り出されたオレを、自分のクラスで待ってると言う冬弥を迎えに行ったときの事だった。
そっと教室に入り、珍しいな、としげしげとその顔を見つめる。
夕日に照らされた教室で。
天使が、寝ていた。


無防備なやつ、と誰かは知らない席に座りつつ、冬弥を見つめる。
寝息も立てないからまるで生きていないような…。
…生きてる、よな?
若干心配になりつつ、さらりとした髪に触ればふ、と冬弥が目を開けた。
涙に濡れた、灰色の瞳に思わずびくっとする。
…いや、起こしたのはオレなんだけどな…?
「…。…あき、と?」
「わり。起こした」
「…だい、じょうぶ…だ」
ぽやぽやした声で目を擦りながら言う冬弥に「暫く寝てろよ」と告げる。
「…だが」
「いいって。眠たいのに無理する方が後の練習に関わるだろ」
「…。…すまない」
「おう」
ふわ、と微笑んだ冬弥がまた目を閉じた。
数回頭を撫でていれば完全に寝入ったらしい。
目を瞑ると幼く見えるよなぁ、なんて思いながらオレは息を吐いた。
夕暮れ、遠くから何かの音楽が聴こえる。
柔らかく耳をくすぐるそれは、懐かしいオーバート。
なあ、冬弥。
オレはお前が好きだよ。
横に並ぶ、お前のことが。
実力もあって、努力もしていて、健気で一途で…挙げだしたらキリがない。
オレのことを一番に考えてくれる冬弥。
自分のことにはとんと無頓着な冬弥。
感情が表に出ないし、本人もよく分かってない冬弥。
…ノクターンから…夜の想いから抜け出せない冬弥。
父親が嫌いで、そんな父親に縛られて、でもオレとの夢を諦めないでいてくれた冬弥。
オレはさ、そんなお前が好きなんだ。
「なあ、知らないだろ?」
そっと囁く声が霧散してオーバートが渦巻く冬の教室に、溶けた。



次に目を開けた時は、きっと夜明けだから

「な、相棒」

夢の中にいる冬弥に囁く

…今はただ、穏やかな夢を…お前に

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