同棲類冬 こたつ、鍋、イチャイチャ

「…よし、こんなものかな」
元々あった二人用のテーブルにそれ、を付け、元に戻す。
先程買ってきたばかりの、落ち着いた色の布団をかけ、類はニコリと笑った。
一緒に暮らし始めて9ヶ月。
類と冬弥の暮らす部屋に炬燵が設置された。


「…類さん、お鍋の用意できました」
「ありがとう、冬弥くん。僕も今炬燵の準備終わったよ」
ひょこりと顔を出す冬弥に笑い掛ければ、彼も僅かに笑みを見せた。
今年の冬は大寒波で、今まではホットカーペットで凌いでいたのだが…流石にそうも行かなくなってしまったのである。
「早速入るかい?」
「…駄目です。お鍋、冷めてしまうので」
「フフ、釣れないねぇ」
くすくす笑う類に、冬弥も僅かに笑った。
「なら何かお手伝いしようかな」
「助かります。…箸とお椀を運んでもらえますか?」
「もちろん、良いとも」
指定されたそれを、設置したばかりのこたつに運ぶ。
後から土鍋を持った冬弥が現れた。
何度となく見た光景なのに…まだドキドキするのは惚れた弱み、だろうか?
「?類さん?」
「ああ、ごめんね。…食べようか」
首を傾げる彼に微笑み掛ければ、はい、と笑む。
蓋を開ければうどん、肉、豆腐、魚、そして冬弥が食べる分だけの野菜が鍋の中でグツグツと音を立てていた。
いただきます、と二人で声を合わせる。
今日は鍋だが…一緒に暮らし始めた時よりも冬弥は料理が上手くなった。
元々器用なのもあったのだろう。
入れてくれた肉団子も綺麗な丸を描いていて、彼らしいな、と思いながら口に含んだ。
「…冬弥くん?」
「…はい?」
途端、口元を抑え、類は彼の名を呼ぶ。
さらりと髪を揺らす冬弥を…抱き寄せ、口付けた。
「?!ん、ふぁ…ぁ…」
驚く彼に肉団子を口移しし、類は彼を解放する。
「…。…騙したね」
「…騙してません。言っていなかっただけです」
じっとりと見つめる類に冬弥は珍しくふいと目をそらした。
肉団子には細かくした野菜が入っていたのだ…冬弥は類が野菜嫌いだと知ってあれやこれやと食べさせようとしてくる。
決して無理矢理ではないのだが…全く気が抜けないじゃないかとため息を吐いた。
今日とて少し食べてくれたら、程度だったのだろう。
類にとっては死活問題なのだけれど。
「…。…せっかく、暁山や草薙から情報を貰ったのに」
「…君が瑞希や寧々と組んだら僕の立場がなくなるから止めてほしいな?」
ブスくれる冬弥に苦笑いを返す。
「…悪かったよ。機嫌を直してくれ…冬弥」
さらりとした髪を弄びながら囁やけば、彼はズルいです、と頬を紅くした。
これは炬燵のせいでも、鍋のせいでもないのだろう。
まだ名前で呼ばれ馴れない冬弥が可愛いな、と思った。
「美味しいクッキーを差し入れに貰ったんだ。後で食べないかい?」
「…なら、類さんの珈琲が飲みたいです」
「…分かったよ。仰せのままに、僕の可愛いお人形さん?」
小さく微笑む冬弥の、綺麗な指に口付ける。
どうやら機嫌は…直ったらしかった。


「…あの、類さん?」
「…んー??」
「何故、わざわざ同じ所に…?」
食後、不思議そうに冬弥がふり仰ぐ。
「…まあ、これも炬燵の醍醐味じゃないかと思ってね」
「…???」
背後からぎゅっと抱き締めれば彼は小さく首を傾げた。
あ、と口を開けていればクッキーが差し出される。
それを頬張り、幸せだな、とありきたりな事を思ったのであった。


君と過ごす、冬の幸せ。


…そのまま炬燵でシてしまい、冬弥が再び不機嫌になるのは…また別の話、だ。

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