同棲類冬 半年記念、ケーキ

日常の中でふと思い出す。
流石に重いだろうか、なんて我ながら思ったりして。
存外に彼との思い出は大切にしたいのだなぁと苦笑した。

今日は彼と暮らし始めて半年の記念日、である。

「へぇ、類はその辺気にしないかと思ってたよ」
「…うん、僕も意外だったかな」
同棲半年、何をすれば良いだろうかと昔馴染みである瑞希に聞けば少し意外そうな表情をしたあとカラカラと笑った。
苦笑しながら答えれば悪そうな笑みを浮かべる。
「自分が、自分で?」
「そういうことになるね」
「いいんじゃん?冬弥くんのこと、それだけ大切って事でしょ」
イタズラっぽく笑い、瑞希は、そうだ!と声を上げた。
何やらゴソゴソとカバンを探り、スマホを取り出したかと思えば、ほら!と画面を見せてくる。
「…何なに…?ケーキ言葉…?」
画面に映る文字を読み上げると、瑞希はそう!と笑った。
「花言葉みたいでさ、面白いでしょ」
「…花言葉、か」
小さく呟く類に瑞希は頬杖を付きスマホを自分の元に戻す。
「流石に花束は後で困るだろうしさ、二人とも甘いのは好きでしょ」
「そうだね。恩に着るよ、ありがとう瑞希」
「ふっふー、なら今度ボクにもケーキ奢ってよね」
にひ、と笑う瑞希に、仰せのままに、と笑みを作り立ち上がった。
手を振り、類は歩き出す。
スマホには先程見せてくれた店の情報が送られていて、敵わないなぁと苦笑したのであった。

「ごめんね、瑞希!遅くなって。冬弥が神代先輩と同棲半年だっていうからさぁ、ケーキ言葉ってのもあるし、お互い甘いの嫌いじゃないならケーキはどうかって盛り上がっちゃって…瑞希?」
「…いやぁ、一緒に暮らすと似てくるっていうけど何もここまで似なくてもと思ってねぇ…」


きらびやかな店内は甘い匂いに包まれていた。
場違いだなぁとは思うがあまり気にしない。
こんな事で人目を気にしていたら良いパフォーマンスなんて出来ないのだ。
類が悩んでいるのはそこではなく。
「量が、なぁ…」
独りごち、そっとため息を吐いた。
ショートケーキかと思っていたのだが、存外に大きかったのである。
パウンドケーキと銘打ってるだけあってなかなかの大きさだ…流石にホールケーキよりは小さいだろうが。
それに、彼にぴったりなケーキを見つけてしまったのだ。
冬弥に捧げればどんな顔をするかと考えるだけで笑みが止まらなかった。
「まあ、二人なら大丈夫かな」
くす、と笑って類は顔を上げる。
すみません、とオーダーすべく声を出したのだった。


「ただいま、冬弥くん」
「…お帰りなさい、類さん」
玄関で声を掛ければパタパタと音がして黒エプロンをした冬弥が顔を出した。
料理中だったのだろう彼に触れるだけのキスをすれば嬉しそうに表情が解ける。
「…そうだ、まだ珈琲はあったかな」
「ありますけど…飲みたいんですか?」
「いやいや。食後にデザートでも、と思ってね。…ほら、僕ら同棲して半年になるだろう?だから、お祝いも兼ねたんだけど…冬弥くん?」
首を傾げていた冬弥にそう言いケーキの袋を見せれば彼はぴしりと固まった。
まさかここのケーキは苦手だったりしたのだろうか。
恐る恐る声を掛ければ恥ずかしそうに目を逸らした。
「…俺も、なんです」
「へ?」
短い言葉にキョトンとしていると腕を引かれる。
連れられて行った先はいつものリビングで。
思わず類は、目を見開いた。
…ダイニングテーブルには、類が買ったものと同じ袋があったから。
「…白石に相談したらここが良いんじゃないかって」
「なるほど、サプライズが被ってしまったわけだ」
小さな声で告白する彼に類はくすりと笑う。
「…中身を見ても?」
「はい。…俺も、良いですか?」
「勿論だとも」
確認を取り、二人してせーので箱を開け、顔を見合わせた。
思わず笑ってしまう。


類が選んだのはピスタチオ・フリュイルージュ。
冬弥が選んだのはテリーヌショコラ。


その言葉の意味は、二人だけが知っていた。


(ちなみに、カロリー消費の為にその日の夜は激しかったとかどうとかこうとか)

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