マキノ誕生日

「…逢河」
小さな声で誰かに呼ばれた気がしてマキノは振り向いた。
誰だろうかと首を傾げていればしゃがみこんだカイコクがちょいちょいと手招きをしていて。
「…?」
「…こっちだ、こっち」
声を潜めこちらを呼ぶ彼に、首を傾げながらもマキノは足をそちらに向ける。
皆からは見えない部屋の隅、何があるのだろうと思っていると立ち上がっていた彼がぐいと手を引いた。
「…わ」
バランスを崩しかけ、思わず屈んだマキノの頭に彼の手が乗せられる。
「…誕生日おめっとさん」
なでり、と頭を撫でられ、思わず目を見開いた。
誕生日?
誰の??
一瞬分からなくなり、彼の柔らかいそれに、ああ、自分の誕生日だったかと気付く。
「…あり、がと。…覚えていて、くれて」
「…ん、まあな。お前さんは俺とも近いしなァ」
笑みを浮かべるとカイコクもふにゃりと笑った。
存外律儀な彼は「こんな事しか出来ねェけど」と言うが…マキノはこんな事、が嬉しかったのである。
マキノは愛を知らなかったから。
こんな風に与えられるのが嬉しくて。
「…カイコッくん」
「ん?どーした」
「…ぎゅって、して」
思わず口をついて出たそれにカイコクが綺麗な目を見開かせた。
カイコクとて予想外だったのだろう。
駄目だろうかと思っていれば驚いたそれをふわりと和らげた。
「…お前さんも存外欲深いねェ」
くすくすとカイコクが笑う。
「…だめ?」
「そうさなぁ。その聞き方は反則、だわな」
首を傾げて見せれば彼は曖昧な笑みを浮かべ、ん、と手を広げた。
まさか受け入れてもらえるとは思わず固まっていれば今度はカイコクが首を傾げる。
「逢河?」
優しい声にふらりと身体を寄せた。
満足そうに頷いた彼はゆっくりと抱きしめてくれる。
ただ、それだけ。
ケーキもプレゼントも何もないけれど最高のプレゼントだと…マキノは思った。

(君がくれる、優しさという名のプレゼント!)

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