KAITO誕生日

どうもこんにちは、鏡音レンです。
今日はうちの兄の誕生日です。
…誕生日の、はずだった…んだけどなぁ…。


「…えと、カイコちゃん?」
「…珍しいね、カイコさんがうちに来んの」
「突然すみません、カイトさん、レンくん」
玄関先に立っていたカイコさん…兄さんの先天性女体亜種だ…が、ぺこりと頭を下げる。
それは良い、カイコさんが礼儀正しいのなんて割といつもだし。
…じゃなくて、大きなリュックを持ってるのが問題で…。
「…あらぁ、どうしたの?カイコちゃん」
「えっ、カイコたん?!ひっさしぶりー!」
「こんにちは、メイコさん、リンちゃん」
にこ、と微笑むカイコさんがすぅと息を吸った。
そして。
「少しの間この家に置いていただけませんか?!」


「…遅くなってごめんね」
「すみません、お忙しいのに」
「ううん、大丈夫だよ。ルカ、ありがとう」
「いえ、カイコさんとのお話、とても楽しかったので…」
そんな会話が聞こえて立ち止まった先では客間に通されたカイコさんと、ふわふわ笑うルカ姉ぇと兄さんの癒やし空間が広がっていた。
…すげぇ…お邪魔してぇ……。
「あら、レン兄様」
「レン!用意終わったんだ?」
「レンくんも良ければこちらにどうぞ。…お土産、持ってきたんですよ?」
そんな3人から手招きされたらおれはもう行くしかなくて。
つか、当たり前だよなぁ?!
行くに決まってるよなぁ?!
「お邪魔しまーす!」
ウキウキとそっちに行きかけたおれのポニーテールを誰かがぎゅっと引っ張った。
毛根が逝きかけるからやめろよな、Vocaloidだからんなこたぁないけど!
「いってぇな!何す…ミク姉ぇ」
「…あたしも同席して良いかな??」
にっこりと笑うミク姉ぇ……目がマジなんですけどねぇ、電子の歌姫さん!!
「もちろん!」
「えへへー、ありがと、カイコちゃん!…ところで、マスターと何かあった?」
いそいそとルカ姉ぇの隣を陣取ったミク姉ぇがさっくりとそう聞いた。
何だってそんな切り込みにくいとこ普通に聞いちゃうかな、この歌姫は。
ちなみにカイコさんのマスターはうちのマスターの先生だ(大学教授って言ってたから、偉いんだろう)
割と穏やかな紳士タイプだから、あんま、喧嘩するとかは考えられないんだけどなぁ…と、思いきや。
「…マスターとは、何もないのだけれど…」
そう、困ったように言った。
え、マジか。
マジか?!
マスターとは何もない。
ってことは。
「…あの、今日は私達の誕生日でしょう?」
「うん、そうだね」
首を傾げたカイコさんに兄さんが頷く。
今日は兄さんの誕生日だ。
…まー兄さんの場合ちょっと特殊で、記念日がいくつかあるんだけど、うちではバレンタインも被らない今日が誕生日なんだよな。
「お兄ちゃん、今年のケーキなにー?」
「今年は無難にロールケーキだよ。さっき、後は飾り付けするだけのケーキを托してきた」
「…相変わらずプロですわね…」
「無難とは何だったのか……」
にこりと笑う兄さんに、ルカ姉ぇと二人で曖昧な笑みを向けた。
いや違う違う、カイコさんの話!
「ごめん、続けて」
「いえ。…カイトさんは、自分のお誕生日の用意を手伝ってるんですか?」
こてりと首を傾げたカイコさんに、兄さんが笑う。
「手伝ってるっていうか…サプライズがどうしてもサプライズじゃなくなってるっていうか」
「察しが良すぎるんだよなぁ、兄さんは」
「もうどうしたって隠すの無理だから、パーティーの中身で勝負することにしたんだよねー」
「それにカイト兄様のケーキが一番美味しいですから…。毎年、ケーキの準備だけは手伝って頂いてるんです」 
口々に言うとカイコさんは小さく息を吐いた。
いいなぁ、なんて言葉が漏れる。
「…な、何が…」
「…ミクオくんが、私を避けるんです」
おずおずと聞けばカイコさんはぽつりと言った。
…あー……。
ミクオこと初音ミクオ、ミク姉ぇの先天性男体亜種で、カイコさんと暮らすVocaloid。
紛れもないシスコンでなんだったらそれ以上だと思ってんだけど…。
何したんだか。
「ミクオくん、私のサプライズパーティーをやるって思ってくれてるのは良いんですけど、露骨に避けていて…。ちょっと話しかけただけで『姉さんはあっち行ってて!』って…」
「…で、出てきちゃった、と」
「…はい」
しゅん、とするカイコさん。
わぁ、兄さんとおんなじ顔してるー、当たり前だけどさ。
「心配してるでしょうか……」
落ち込むカイコさんにミク姉ぇが身を乗り出した。
「え、じゃあ初音さんが代わりに行こっか?!」
「初音さん出てきたらややこしくなるからすっ込んでて」
「…ルカちゃん聞いて?!弟がお姉様をいじめる!!」
「ミク姉様、レン兄様の邪魔をしてはいけませんわ。私とこちらで今日の用意をしましょう?」
「はぁい!…あれ?」
首を傾げるミク姉ぇがルカ姉ぇに連れられて出ていく。
…つか何しに来たんだよ……。
くすくすと笑う兄さんが「…まあ、ミクなりの心配だから、気にしないで」と言った。
「カイコちゃんも、怒ってはいないんだろう?」
「ええ、少し…悲しかったんです。あんな言い方…初めてだったし。でも今更…」
「…カイコ姉さん!」
うだうだ言ってるカイコさん、珍しいなぁなんて眺めてたら誰かが飛び込んできた。
うるっせぇな、もう。
「ミクオくん?!!」
「王子様のお迎えだね」
「…つーか人んちなんですけどねぇ、初音さんねぇ」
「ごめん、カイコ姉さん!!おれ…っ!」
入ってくるなり慌てるカイコさんを抱きしめるミクオにため息を吐き出せばにいさんがちょいちょいとおれの服を引っ張った。
そっと部屋を出ると兄さんが楽しそうに笑う。
「…いーの、あれ」
「…まあ、うちもミクの誕生日の時お世話になったからね」
「おれら関係ねぇじゃん。…ったく」
お人好しな兄さんに背伸びをして軽いキスをした。
「…プレゼント。予約しとくから」
「…ふふっ。じゃあパジャマはレンの誕生日に貰ったやつ着とくね?」
小悪魔っぽく笑う兄さん…くそぅ、反則だろ、今のは!


今日は可愛い兄さんの誕生日。



いくら歳を重ねても、おれは兄さんに勝てないらしい!

(そんなことないらしい、と気づくのはもう少し後の話)


「仲直りしたのかよ、ミクオ」
「お陰様で。…レンは?仲良ししたのかよ」
「…お陰様で」

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