ワンドロ/涙・告白

ポロポロと冬弥の目から涙が溢れる。
不味い、と思ったかどうかくらいのところで先に体が動いた。
「…冬弥」
引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。
震える華奢な身体を強く、安心させるように。


さて、事の起こりは10分ほど前。


「…。…これはまたすげぇな」
彰人は呆然と指定されたそれを見上げた。
最近になって新しく出来たというミュージックカフェのクーポンが配られていたから、どうせ暇だし行ってみようと言う事になった…そこまでは良い。
BADDOGSも結成したばかり、どんどん現場を積んで行かなければという焦りもあり、様々な場所で歌っていた。
今回も上手く行けば飛び入りで参加できるかもしれない。
しかしまあその場所が最近出来た15階ビルの最上階らしいのだ。
珍しい場所に建てたな、とぼんやり思う。
「…っし、行くか」
「…」
「?どした、冬弥」
いつもなら何かしら返事があるのに、何も言わない冬弥に首を傾げた。
何でもない、と言う声が普段より固く聞こえたが本人がそう言うなら、と彰人は歩き出す。
ビルに入り、エレベーターのボタンを呼んだ。
程なくして来たそれに乗り込めば全面ガラス張り、外が丸見えというよくあるものであった。
「へぇ、中もすげぇな」
「…そう、だな」
「…って、大丈夫か、お前。顔色悪い……」
カタカタと震える冬弥に手を伸ばした、その瞬間。
「…え?」
目の前の光景を思わず疑った。
ボロボロと涙を流す相棒を見て、思わずぎょっとする。
頭が真っ白になりながらどうにか身体を動かし、冬弥を引き寄せた。
すまない、と彼は涙ながらに高いところがどうしても苦手なこと、伝えたかったが言い出せなかったことを告白してくる。
そんな涙の告白を聞きながら、彰人はただただ抱きしめるしかできなかった。





「…そんな事もあったな」 
懐かしそうに目を細める冬弥。
今でも高いところは苦手らしいが…あの時よりは素直に、早めに感情や自分の思いを伝えてくれるようになった。
良い事だ、と彰人は思う。
ただでさえ分かりにくいのだから、きちんと伝えてほしいのだ。
「…彰人」
「ん」
名前を呼ばれ、手を差し出す。
するりと握られるそれに思わず口角を上げた。
もうあの時のミュージックカフェに行くことはなくなったが…たまに高いところに行くとこうやって手を繋ぐようになったのである。
まるで、心をつなぐように。
「…ま、泣いて告白されちゃ、な」
「?何か言ったか?」
こてりと首を傾げる冬弥に、何も、と言ってやる。

二度と泣かせないと誓ったことは、暫く教えてやらないつもりだ。
(例えそれがどんな内容だったとて!

彼の涙はもう、見たくはないから!)

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