ワンドロ/首輪・依存

『私の恋を 悲劇のジュリエットにしないで』

そんな歌が聞こえて彰人はふと上を見る。
大きなディスプレイからはバーチャルシンガーである初音ミクが歌い上げていて。
ジャンルが違う、と思いながら彰人はスマホに視線を落とした。
すい、と操作し、セカイに行く。
「…冬弥」
一瞬の白い光の後、広がった景色に目を細めながら相棒の名を呼んだ。
彰人、と紡ぐ彼は、今日は随分変わった衣装を着ている。
「…何だ、それ」
「…セカイのお茶会スーツ、というらしい」
「へえ?」
くる、と冬弥が燕尾服が閃かせた。
スペードの模様が入った手袋が彼の綺麗な手を隠していて、勿体無いな、とそれだけを思う。
と、横に何かが置いてあるのが気付いた。
「なあ、これ何?」
「…ああ、それか」
摘み上げると冬弥が何でもないように「チョーカーだ」と言う。
「ああ…」
「一人では着けられなくてな」
「ふぅん。なら、着けてやろうか?」
少し困った顔の冬弥に言えば彼は何の躊躇いもなく頷いた。
「頼む」
「ん」
後ろを向き、少し後ろ髪を上げる冬弥に、無防備なやつ、と彰人は小さく笑う。
つ、と指で項をなぞればぞくりと目の前のそれが戦慄いた。
「…っ!彰人!」
「わりぃ」
珍しく声を荒らげる冬弥に笑いながらチョーカーを着けてやる。
まるで首輪みたいだな、と思った。
冬弥もそう思ったのか、「…首輪…」と小さく呟く。
「お前、そんな簡単に飼いならされないだろ」
「…それは…そうだが」
ムスッとする冬弥に彰人は笑ってしまった。
だって、彼は気がついていないから。
簡単には飼いならされないが…慣れてしまえば水が落ちるより早く『こちらに来る』ということを。
言うなればそれは『依存』。
それも、『共依存』だ。
誰と、誰が?
勿論、冬弥と…彰人が、である。
お互いがお互い、相手がいないと意味がないと思っていた。
それを依存と呼ばずに何と言うだろう?

『私の為と差し出す手に握ってるそれは首輪でしょう?』

初音ミクの声がする。

冬弥の為と差し出した手に握られたものは何だった?

「行こうぜ、冬弥」
「ああ」
笑う、彰人に冬弥が頷いた。


7階から見える灯の先、二人で共に行こう。

なあ、『俺の     』。


(その先は彼の過去と決別する、共依存)

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