類冬 冬の恋人

「知っているかい?冬弥くん。今日は冬の恋人の日、なんだそうだよ」

いつもの時間、いつもの図書室。

いつもの彼と二人きり。


そんな中でこの話題を出したのは単なる暇潰しであった。
「…?何故、冬の恋人なのでしょうか」
「うーん、バレンタインとホワイトデーの間の日だとか、語呂合わせで絆、と読めるからとか、色々説はあるみたいだけれど」
こてりと首を傾げる冬弥にそう答えればますます彼は不思議そうな顔をする。
「…2は『き』とは読まないのでは…」
少し真面目な彼に、類は小さく笑った。
語呂合わせなんて多少は強引なものだろうに。
「ふふ。そんなことを言えば世の中の語呂合わせは皆矛盾だらけになってしまうよ?」
「…それは…」
「多少強引なくらいが楽しいと、そうは思わないかい?」
口ごもる冬弥ににこりと笑って見せれば彼は小さく目を見開いてから、ゆっくりと表情を和らげる。
そう、ですね、なんて笑む冬弥に、類はチョロいなぁとほんの少し失礼なことを思った。
「…あの、神代先輩」
「ん?どうしたんだい?」
と、冬弥が声をかけてくる。
珍しいなと微笑んだ類に、冬弥は少し悩んだ末口を開いた。
「…冬の恋人、とはどんな事をするのでしょうか」
傾げた首と口調は、単なる疑問で。
そこに何らかの意味はあるのだろうか、なんて笑いながら類は小さく上を向く。
「そうだねぇ、一つのマフラーを二人で巻いてみたり、手袋を片方ずつ付けて嵌めていない方の手を繋いでみたり、コンビニのホットスナックを分け合ったり、かな。…後は」
くすりと笑って類は着ていたコートをばさりと広げた。
え、と驚いた表情の冬弥の顔を隠すようにし…軽く口付ける。
「…っ!ふ…」
「…こういう事ができるのも、冬ならでは、かな」
びくっと身体を震わせる冬弥に低く囁いた。
狡いと言わんばかりに見上げる冬弥の頭を撫でる。
彼は普段あまり表情を見せないから、存外楽しくなってしまったのだ。
さらりとした髪を撫でていれば、冬弥がコートの裾をちょいと引っ張る。
「…冬弥くん?」
「…俺は、説明されただけでは冬の恋人、というのが良く分かりません。…なので、実践してもらっても良いですか…?」
少し上目遣いでそう言う冬弥に、思わず目を見開いてしまった。
…本当に、この子は。
ふっと目を細めて類は頷く。
「それは、デートのお誘いととっても?」
「…」
尋ねる類に、冬弥はこくりと首を縦に振った。
そんな彼の手を取り、引き寄せる。
冬の恋人の日に因んだ、デートをするために。


もうすぐ春が来る、その前に。


可愛い君と、君と同じ名前の季節を!

name
email
url
comment