にゃんにゃんにゃん

セカイには衣装バグがあるらしい。

そうして今回のバグは、現実にも影響を及ぼすものだそうだ。


…だからって。


「なんっで冬弥だけなんだよ…!」
はぁあ、と彰人はため息を吐き出した。
まあまあ、とにこにことするのはスマホから出たバーチャルシンガーの鏡音レンである。
『今原因を調べてるからさ!ちょっと待っててよ!』
「原因ってな…」
「…まあ、焦っても仕方がにゃい。よろしく頼む、レン」
『まっかせて!』
呆れる彰人と柔らかく微笑む冬弥にレンが敬礼し、スマホの中に帰っていった。
「…なんでお前はそんな動揺しないんだか」
「?動揺したところでどうにもにゃらないだろう?」
「いやまあそうだけどな…?」
ピコピコと三角耳を揺らし、長い尻尾を揺らめかせる冬弥…そう、彼には猫耳と猫尻尾が付いてしまったのである。
前もそんなことがあったが、今回が前と違うのはセカイの中だけでなく、この現実世界にも影響しているようなのだ。
「誰かに見つかったらどうす…」
「おっ、冬弥に彰人じゃあないか!」
「奇遇だねぇ、何をしているんだい?」
ひそひそと声を顰める彰人に降り注ぐのは神山高校の変人ワンツーフィニッシュこと、司と類のそれで。
思わずげぇっという顔を晒してしまった。
「…司先輩、神代先輩」
「おや?随分可愛い格好だね、冬弥くん」
「おお!ライブで使うのか?可愛らしいな、冬弥!」
にこにこと先輩二人が冬弥の頭を撫でる。
どうやらあまり疑問を持たなかったようだ。
それに少しホッとしつつも冬弥の体をこちらに引き寄せる。
「冬弥はオレの相棒なんスけど。触んないでもらえますぅ?」
「…彰人」
「なんだ?少しくらい良いではないか!」
「そうだよ。冬弥くんは君だけのものではないんだし」
ムッとする司とにこにこする類に、べ、と舌を出した。
「センパイ方だけのもんでもないっしょ」
「…彰人」
「…へーへー」
窘めるような冬弥の声に、小さく舌打ちをする。
冬弥が困るのは吝かではなかった。
「…しかし凄いなこれ。本物か?」
「んっ…ええと、俺にも良く分からなくて…」
司が、ふに、と冬弥の耳を指で触った。
小さく声を上げながらも冬弥が真面目に答える。
「ふぅん?じゃあこの尻尾もそうなのかな?」
「…ふっ…ええと、はい」
すり、と類が冬弥の尻尾を擦り、聞いた。
少し頬を染めながら冬弥が頷く。
「…あ、あの…?わっ?!」
「可愛らしいな、冬弥!」
「うんうん、猫というのがまた君らしくて良いね」
「だーから、触んなっつってんだろーが!」
ギュッと冬弥に抱きつき頭を撫でる司と類に彰人はぎゃあっ!と声を上げた。
「冬弥も!かんたんに触らせてんな!」
「…だが」
冬弥にもそう言えば彼はむう、と唇を尖らせる。
「…気持ち良いんだ、触られるの」
「…は?」
「なるほど。冬弥くんがそう感じるのは、今が猫だからかもしれないね」
「あぁ、撫でられるのが好きな猫もいるものな!」
彼の言葉にぽかんとしていれば、類がそう言い、司が納得したように頷いた。
いや、納得してたまるか、と彰人が脳内で突っ込む。
「彰人」
「…なんだよ」
二人の先輩に囲まれた冬弥がくい、と彰人の服を引っ張った。
少し疲れながら彰人は返事をする。 
もうこうなったらどうにでもなれといった気持ちだった。
「…彰人も、撫でてくれ」
「あーはいは…は?!」
柔らかいそれに適当に返事をしかけ、素頓狂な声を上げる。
おや、と類が笑った。
「猫になった冬弥くんは少し欲張りで我儘だねぇ」
「良いことなんじゃないか?それくらいは可愛らしいものだろう。なぁ、彰人」
軽く言う司をぐぬ、と睨む。
彰人、と首を傾ける冬弥の頭を、ああもう!と撫でてやった。
嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らす冬弥に、猫みてぇ、とぼんやり思う。
「…首輪」
ほのぼのした空間に小さく呟かれる不穏な声。
それにまたひと波乱あったのは、また別の話である。


彼のバグには理由があるんだよ?

だって今日はにゃんにゃんにゃんの猫の日、だからね!

name
email
url
comment